1.1 中性子でレーザー光が発生した−中性子計測の新しい試み
   


図1-1  原子炉で照射したレーザー発振試験管から放射された光のスペクトル図

ヘリウム-3・ネオン・アルゴン混合ガスを封入したレーザー発振試験管をJRR-4炉心近傍で照射して得られた発光を光ファイバーによって原子炉外に導き、光スペクトルアナライザで分析した発光スペクトルです。原子炉出力を200 kWから3.5 MWまで変化させて測定しました。3.5 MWは中性子束として約 1×1012中性子/cm2・秒に相当します。図中で波長の値を記した鋭いピークが中性ネオン原子(NeI)から放出されたものです。大きなピーク585.3 nmでレーザー発振が起こるものと期待されます。

 


 全く新しい原理による中性子検出器の実現の可能性を探るために、中性子による核反応エネルギーをポンピングエネルギーとしてレーザー発振させる研究を進めています。
 中性子を検出するためのレーザーには、ヘリウム-3・ネオン・アルゴン混合ガスを用います。混合ガスが中性子によって照射されると、核反応3He(n,p)3Hによって発生するエネルギーの一部が基底状態にあるネオン原子を3p状態に励起します。そして、3p状態が3s状態に変わるとき、波長585.3 nm の光を発生します。レーザー発振が起こるためには、3p状態にある原子の数が3s状態にある原子の数よりも多い、いわゆる逆転分布を作らなくてはなりません。アルゴンガスはネオンの逆転分布を促進する働きをします。
 この研究を進めるためには、荷電粒子エネルギーの損失過程、励起エネルギーの分配過程及び励起状態の消滅過程等について、物理モデルと基礎データに基づいた理論解析とその検証のための実験が重要です。これまでの研究によって、レーザー発振は中性子束が約 3×1012中性子/cm2/秒以上になると起こることがわかりました。図は研究炉JRR-4による実験結果の一部を示したものですが、近く予定している材料試験炉JMTRによる実験では更に高い中性子束が得られるためレーザー発振が起こるものと期待しています。


参考文献

K. Sakasai et al., Experiments for Optical Neutron Detection Nuclear Pumping Laser, IEEE Trans. Nucl. Sci. 43(3), 1549 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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