1.3 イオンビームで植物の遺伝子操作
   


図1-4  左はシロイヌナズナの野性種の葉、右は炭素ビーム照射で現れたヒゲがない変異種

 

図1-5  上はシロイヌナズナの野性種、下はイオンビーム照射でアントシアン色素が種皮に沈着する変異種(いずれも受精後4日目)

 


 植物は地球上に出現して以来、宇宙線を含む放射線とのかかわりを続けてきています。現在では人工的に植物に放射線を照射し、品種改良が行われるようになっています。最近の例では、農林水産省の放射線育種場でコバルト60ガンマ線を用いて開発された黒斑病に強い“ゴールド二十世紀なし”があります。
 原研ではイオン照射研究施設(TIARA)を用いて、シロイヌナズナと呼ばれる植物の種子にいろいろのエネルギーのヘリウム、炭素、ネオン及びアルゴン等のイオンビームを照射し、誘発される突然変異を調べています。シロイヌナズナは、(1)植物体が小さく自家受粉と他家受粉により増殖すること、(2)一世代が約40日と非常に短いこと、(3)ゲノムの大きさが小さいこと、(4)遺伝子に関する情報が蓄積されていること、(5)組織培養ができることなどの理由から選ばれました。
 炭素イオンを照射すると図1-4と図1-5に示すように、葉にヒゲがないもの、種子に赤い色素(アントシアン)が生ずる変異種が現れることが見いだされました。重イオンマイクロビームを用いて、細胞の特定の部位に照射したり、そのような細胞を融合(非対称細胞融合)したりする新しい手法を用いる研究も進められており、今後の成果が期待される分野です。


参考文献

田野茂光,シロイヌナズナとイオンビーム, 原子力工業, 41(3), 24 (1995).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
copyright(c)日本原子力研究所