1.4 放射光で狙い撃ちして化学結合を切る
   

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図1-6  固体SiCl4分子に放射光を照射したときに表面から脱離する正イオンの分布

赤い破線上の棒グラフはClの内殻軌道電子、青い破線上はSiの内殻軌道電子をそれぞれ励起したときの脱離イオンの収量を示しています。Clの内殻軌道電子を励起すると、脱離イオンのほとんどはCl+イオンとなります。

 


 原子や分子の電子軌道は、化学結合に関与しない内殻軌道と化学結合をつかさどる外殻軌道に分かれます。原子や分子に可視光や紫外線等の光を当てると、外殻軌道間の電子のやりとりが促進され、特異な化学反応をおこすことが可能であり、これを光化学反応と呼んでいます。光化学反応制御の可能性を探るため、内殻電子を高分解能(1/2000)で励起できる放射光X線が用いられました。
 上の図は、シリコン原子(Si)と塩素原子(Cl)から成り立つ四塩化ケイ素(SiCl4)の固体に放射光X線を当て、表面から飛び出すイオンを測った例です。X線のエネルギーを塩素原子の内殻軌道エネルギー(赤い破線上)に合わせると、シリコン原子に合わせた場合(青い破線上)に比べてイオンの分布は大きく変わり、ほとんどが塩素イオン(Cl+)になっています。これは、内殻軌道のエネルギーが元素に固有であるため、SiCl4分子の塩素原子側のみが選択的に光励起されたことによると考えられます。
 このように、放射光X線を用いて、特定の元素を選択的に狙い撃ちした光化学反応を起こすことができる分子の例をいくつか見つけることができました。すなわち放射光X線は、化学結合を選択的に切断することができる有能な“メス”であると言えます。


参考文献

Y. Baba et al., Photon-stimulated Ion Desorption from Condensed SiCl4 by Resonant Excitation at the K-edges, Surface Sci., 341, 190 (1995).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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