1.6 極低温の化学反応を探る
   


図1-9  固体パラ水素に4.2 Kでγ線を照射し、生成・捕捉したオルト-及びパラ-水素アニオンラジカルの電子スピン共鳴(ESR)スペクトル

固体パラ水素は、超微細相互作用の原因になる核スピンが逆向きで相殺するため極めて分解能の高いESRスペクトルを与える系です。これを利用して図に示されたESRスペクトルが電子-H2+対、HO2、H3、H2+などではなく、H2-に基づいていることを推論することができます。

 


 宇宙空間に浮かぶ極低温のダスト表面などで化学反応はどのように進むのでしょうか? 紫外線や放射線から反応に必要なエネルギーをもらい、そして原子の移動は熱エネルギーでなく量子力学的なトンネル効果に支配されると考えられます。
 最近、私たちは、固体パラ水素(p-H2 ; 水素分子の2つの核スピンが互いに逆向き)を用い、ガンマ線照射による電離作用で放出した電子が別のp-H2分子に捕捉される反応を見つけました。
 
 このとき生成される水素分子アニオン(負イオン)はパラ状態(25%)とオルト状態(75%)ですが、どちらも4.2K温度で一日ぐらいの時間をかけてトンネル効果により消失します。


参考文献

T. Kumada et al., Experimental Observation of H2- Anions by High-Resolution-ESR Spectroscopy in γ-Ray Irradiated Quantum Solid Parahydrogen at 4.2 K , Chem. Phys. Lett., 251, 219 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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