2.2 電流分布を自在に制御−プラズマを閉じ込めるバリアの形成
   


図2-3  凹状の電流分布とプラズマの閉じ込め

(a)に示す安全係数はプラズマ電流の分布から求められ、凸状の通常の電流分布(図2-2参照)ではプラズマの中心から表面へ向けて単調に大きくなりますが、凹状の分布では、逆に減少する分布になります。プラズマ表面に向かって安全係数が減少している領域(負磁気シアー領域)でプラズマの閉じ込めが顕著に改善されることがわかりました。

 

図2-4  低域混成波電流駆動により凹状の電流分布を7.5秒間維持

プラズマ半径の約半分の位置に低域混成波を入射して、外部からプラズマ電流を駆動して凹状の電流分布を維持できることを示しました。これはプラズマの閉じ込めに都合の良い電流分布を外部から形成、制御できること(“整形”)の原理的実証になります。

 


 原研が目指している“定常トカマク炉”を実現するためには、圧力の高いプラズマの良い閉じ込めとプラズマ電流を定常的に流し続ける“完全非誘導電流駆動”を両立させる必要があります。これまでのJT-60の実験では、圧力の高いプラズマの閉じ込めによって、プラズマ中に自然に生ずる“自発電流”が後者の目的に有効に利用できることを示しました。一方原研の理論的研究は、この自発電流に加えて外部から非誘導的に電流を流し、プラズマの中心部で電流密度が低く、周辺部で高い凹んだ形の電流分布をつくれば、圧力の高いプラズマを安定に実現できることを予測していました。
 JT-60では最近の実験で、加熱の仕方を工夫して過渡的にこのような中凹みの電流分布をつくり(電流分布の“整形”)、理論の予測どおり優れたプラズマの性能が得られることを確認しました。図2-3は閉じ込めの様子です。プラズマの熱を逃げにくくするバリア(内部輸送障壁)がはっきりと形成され、イオン・電子ともに閉じ込めが改善されています(標準的閉じ込めの2.6倍)。とくに電子密度と温度にこのような明確なバリアを観測したのは世界初の成果です。図2-4は、マイクロ波(低域混成波)を入射して中凹みの電流分布を定常的に維持できることを示した、これも世界初の実験です。


参考文献

H. Kimura and the JT-60 team, Recent Results from High Performance and Steady-state Researches in the JAERI Tokamak-60 Upgrade, Physics of Plasmas, 3 (5), 1943 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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