3.8 世界に先駆けた高性能テクネチウム−99mジェネレータ
   


図3-13  テクネチウム-99m ジェネレータ

99Mo がアルミナ吸着体に固定されており、頂上のバイアルの減圧によりカラムに生理食塩水を流して99mTcを得ます。従来のアルミナにかわり新しく開発した吸着力の高い高分子ジルコニウム化合物を使います。これにより製造が極めて容易で、ウラン廃棄物を生じない(n、γ)反応で生成した99Moが利用できます。

 


図3-14  開発したジェネレータからの99mTcの溶離

天然のモリブデン(MoO3) を中性子照射して溶解後、モリブデン−99を吸着体に捕集させたジェネレータに生理食塩水を流し99mTcを溶離しました。最初の2〜3 mlで大半の99mTcが取り出せることが分かりました。

 


 テクネチウム-99m(99mTc)というラジオアイソトープはいろいろな放射性医薬に加工されて、癌の診断などに利用されています。99mTcは原子炉で天然のモリブデンかウランを中性子照射してモリブデン-99(99Mo,半減期66時間)を作り、その放射性壊変により生成します。99mTcは半減期が6時間と短いので、「ジェネレータ」に加工して医療現場で利用しています。ジェネレータは図3-13のようにガラス管に詰めたアルミナに99Moを吸着させておき、これに生理食塩水を流して99mTcを取り出すようになっています。
 アルミナのモリブデンの吸着量が小さいために、現在はウランから製造した非放射性Moの割合が非常に小さい99Moを使用しています。この製造では、生成する多種多量の核分裂生成物を取り扱うため製造施設が重装備となること、ウランを含む大量の放射性廃棄物が出るなどいくつかの問題があります。
 このたびアルミナに代わる画期的な吸着体を開発しました。塩化ジルコニウムとアルコールを反応させ、加熱して得られた新しい高分子ジルコニウム化合物です。この化合物は99Moの吸着量がアルミナの100倍、また99mTcの収率が80%以上と高く(図3-14)、他方99Moの脱離が0.1%以下と少ないなど、ジェネレータには理想的な性質を持っています。そのため、この化合物は、ウランを使用せず、天然のモリブデンを中性子照射して極めて容易に得られる99Moにも適用でき、今後の実用化が期待されます。


参考文献

長谷川良雄他, RIジェネレータとしてのMo吸着剤の合成, 日本化学会誌, 10, 888 (1996).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
copyright(c)日本原子力研究所