4.8 トリチウムの環境中挙動を解明する
   


図4-16  大気中へトリチウムガスが漏洩したときの環境中トリチウム挙動

 


図4-17  空気中トリチウムガス(HT)およびトリチウム水(HTO)濃度の時間変化

ほぼ一定濃度でトリチウムガスを放出した場合、大気中ではすぐにトリチウム水が検出されましたが、その濃度は放出開始から約10日間でほぼ定常状態になり、トリチウムガス濃度の約 1/100になりました。

 


図4-18  植物中有機結合型トリチウム(OBT) 濃度の時間変化

植物中有機結合型トリチウム濃度は、約12日間のトリチウムガス放出期間中には定常状態になりませんでした。また、植物中有機結合型トリチウムの蓄積速度は葉>根>実の順になりました。

 


 将来、核融合炉では燃料としてトリチウムが使用されます。核融合炉の環境安全性の観点からは、このトリチウムが環境中に漏洩したときの公衆の被ばく線量を予測し、評価することが重要です。このためには、トリチウムの環境中での挙動を明らかにしておく必要があります。特に、トリチウム水はトリチウムガスに比べ、直接人体に取り込まれた場合、人への影響が約10,000倍も大きくなります。そのため、被ばく線量評価上、土壌中微生物によるトリチウムガスからトリチウム水への酸化過程とその後の空気−土壌−植物間のトリチウム水の移行過程、また植物中で光合成によって生成される有機結合型トリチウムへの移行過程などが重要になります(図4-16)。
 このため、原研は、カナダ原子力公社と協力して、カナダにおいて核融合炉の平常運転時を想定したトリチウムガス野外連続放出実験を行いました。その結果、空気中にほぼ一定濃度でトリチウムガスを放出した場合の空気中トリチウム水濃度が定常状態になるまでの時間(図4-17)や植物の部位により有機結合型トリチウムの蓄積速度が異なること(図4-18)などが明らかになりました。


参考文献

H. Noguchi et al., Tritium Behavior on a Cultivated Plot in the1994 Chronic HT Release Experiment at Chalk River, FusionTechnol., 28, 924 (1995).
H. Amano et al., Formation of Organically Bound Tritium in Plants during the 1994 Chronic HT Release Experiment at Chalk River, Fusion Technol., 28, 803 (1995).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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