4.9 どこにでもある放射線
   


図4-19  測定に用いた熱蛍光線量計(TLD)

TLDは放射線にさらされた後熱を加えると、受けた線量に比例した量の蛍光を放出する性質があります。したがって蛍光の強さを測ることによって線量計の受けた放射線の量を評価することができます。粉末状のTLDをガラスのカプセルに封入し、放射線に対する感度を調節するためのフィルターを取付けたプラスチック容器内に収めます。

 


図4-20  住宅の種類別の線量率頻度分布

住宅の種類別に東京周辺の家屋内線量率の頻度分布を示しています。コンクリート系の住宅では相対的に線量率が高く、またそのばらつきも大きいことがわかります。これは建材中に含まれる天然放射性核種のせいです。赤いラインは東京都周辺の本来の放射線レベルを示していますが、これに比べていずれの家屋内でも線量率が高くなっています。これは環境の都市化の影響です。

 


 普段の生活の中でも、人々はいろいろな種類の放射線を受けています。普通もっとも重要なものは、医療行為に伴う放射線と自然界に存在する放射線です。原研では、自然界に存在する放射線・放射能に関する研究の一環として、任意に選んだ東京都首都圏の個人家屋243軒について、熱蛍光線量計(TLD)(図4-19)と呼ばれる小型の積算線量測定器を用いて屋内のγ線レベルを測定し、これとともに家屋の種類、構造等、測定結果の解析に必要な基礎資料を集めることができました。住宅をコンクリート系住宅、木造住宅、軽量鉄骨住宅に分類し、それぞれの住宅内での線量率の頻度分布を表したのが図4-20です。他に比べて建材中に相対的に高い濃度の自然放射性核種を含むコンクリート系住宅は、木造や軽量住宅に比べて明らかに高い線量率であることが分かります。木造と軽量鉄骨住宅では、家屋外から入射する放射線により家屋内の線量率が決まりますが、家屋自体は放射線を遮蔽するため家屋内の線量率は低くなります。東京周辺の本来のγ線線量率は20 nGy/h(ナノグレイ:10-9Gy) 程度ですが、これに比べていずれも家屋内でも線量率が高くなっていることが分かります。都市環境では、道路、ビルディング等の人工建造物に含まれる天然核種からのγ線により、いずれの家屋内でも放射線レベルが高められていることが明らかになりました。


参考文献

K. Saito et al., Measurements of Gamma Dose Rates in Dwellings in the Tokyo Metropolitan Area, Radiat. Prot. Dosim. 69, 61 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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