5.2 その場観察で見る材料の一生
   


図5-2  高温に加熱され、荷重を受け、変形し、壊れる材料の一生を電子顕微鏡の中でその場観察を行います。

 


図5-3  ニッケル基合金を800℃に加熱し、加重を負荷すると、結晶粒界にクリープボイドが発生し(写真上)、成長し(写真中)、合体(写真下)します。点状及び針状の白く見えるものは析出物です。

 


 材料を高温に加熱して荷重を加え続けると、変形が進みついには壊れます。室温で荷重を加えたときと異なって、変形は時間の経過とともに進行します。この現象をクリープと呼びます。材料にも人間と同じように寿命があります。
 超高真空型の電子顕微鏡と材料試験機を組合わせて作った高温その場観察装置(図5-2)により、この材料の一生のドラマが、初めて連続して見ることができるようになりました。この成果は、材料の寿命・余寿命診断に利用できます。
 金属材料には人間の細胞に相当する結晶粒があり、これらが寄り集まり、機械構造物という無機物の形を作っています。
 荷重が加わると結晶粒が伸びます。では変形が進んで壊れるのは結晶粒かというとそうではありません。実は結晶粒と結晶粒の境目にあたる結晶粒界が壊れるのです。結晶の格子には本来あるべきところに原子がない空孔があります。温度が高くなると空孔の濃度は指数関数的に増える性質があります。材料に荷重を加えると、空孔は集まり、結晶粒界にボイドという細かな穴をあけます。この穴はしだいに大きく成長し、互いに合体します(図5-3)。すると、結晶粒界に割れが入ります。この現象はあちこちの結晶粒界で次々と起こります。初め強く結合していた結晶粒がしだいに弱まり、しまいには結晶粒同士が押し合いへし合いし、そしてついには分かれる、つまり壊れることになります。


参考文献

菊地 賢司, 高温その場観察と耐熱構造材のマイクロメカニクス, 第41回材料強度と破壊総合シンポジウム集, 75 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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