5.3 短時間の測定で高温ガス炉材料の一生を予測する
   


図5-4  高温ガス炉のヘリウムを模擬したガスを循環させた雰囲気中でクリープ試験を実施し、取得した破断データをLarson-Millerパラメータ法で整理した結果です。

 


図5-5  材料の劣化機構として、ガスによる材料表面からの腐食損傷と粒界三重点に析出した硬い析出物を起点とする損傷が考えられます。図5-4の応力-破断曲線はこの様な劣化による破断応力の急激な低下は起こらなかったことを示すものです。

 


 高温工学試験研究炉(HTTR)の高温構造設計において、重要な材料試験データの一つは10万時間のヘリウム中クリープ破断強さです。しかし10万時間のヘリウム雰囲気中試験は12年以上の年月を必要とします。そこで約3万時間までの試験を行い、そのデータを基礎に10万時間の破断強さを推定するのが現実的な対応策です。HTTRの中間熱交換器に使用されるハステロイXRについて、一連のクリープ試験を行い、800℃で最長33,521 h、900℃で最長48,587 h、1000℃で最長13,014 hのクリープ破断データを取得して、図5-4に示すように設計許容応力曲線を十分に上回ることを確認しました。
 クリープ試験中における材料の損傷、劣化には図5-5に示すように2つの要因が考えられます。第1は外的なものです。ヘリウムは不活性ガスですが、高温ガス炉のヘリウムは微量の不純物(CH4, CO, CO2, H2, H2O)を含有するので、これが材料を腐食して表面クラックを進展させる場合です。ハステロイXRはこの点を改善した材料です。第2は内的な要因で、高温、長時間試験の間に、硬い異質の相が材料の結晶粒界に析出し、これが内部クラックを発生、成長させる場合です。この様な損傷、劣化が起こると、構造材のクリープ破断強さが減少し、設計許容応力曲線を下回る恐れがあります。
 本試験は、ハステロイXRがヘリウム中で長期間にわたり応力を付加されても健全であることを確証したわけですが、これを人間にたとえれば、伝染病のような外からの病原菌に侵されず、かつ内蔵の病気のごとく自身から発病もせず、仕事をして無事天寿を全う出来るのを確認した事に相当します。


参考文献

Y. Kurata et al., Long-term Creep Properties of Hastelloy XR in Simulated High-temperature Gas-cooled Reactor Helium, J. Nucl. Sci. Technol., 32, 1108(1995).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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