8.2 金属中のバブルもブラウン運動で拡散する
   


図8-2  アルミニウムを温度523Kで17keVヘリウムイオン(フラックス1×1013 ions/cm2/s)で1分30秒間照射してバブルを形成させた後、温度833Kで電子顕微鏡により連続観察したヘリウムバブルのブラウン運動
a, b, cで示すバブルは顕著な運動をしています。aとbが合体した(写真4)、“c”の運動の軌跡を図8-3に示します。

 


図8-3  図8-2で示したヘリウムバブル“c”の軌跡

2秒間隔で測定した位置を順に数字で示します。1は測定の出発点です。

 


図8-4  移動距離の自乗平均と時間tの関係

∝tからバブルがブラウン運動をしていることが分かります。

 


 核融合炉材料は炉内で大量の中性子やヘリウムなどのイオン照射を受け、その結果、材料中には様々な格子欠陥やバブルが大量に発生して、材料の特性、耐久性に重大な影響を与えます。
 色々な照射環境下でのバブルの発生、成長、合体、消滅などの動的挙動とその機構解明のために、原研で開発した「電顕内イオン照射動的観察装置」を用いて系統的研究が行われていますが、最近金属中のバブルの運動について新しい現象が発見されました。図8-2はアルミニウム中に発生した微小バブルの運動を捉えた一連の電子顕微鏡写真です。図8-3の様に個々のバブルの運動の軌跡、即ち位置と時間の関係を図示すると、バブルの出発点から直線移動距離の自乗平均は時間に比例していることが分かりました(図8-4)。このことから、バブルは材料中で、水中に浮遊する花粉の微粒子が示す一連の不規則な運動と同様なブラウン運動をしていることが結論づけられます。
 更にバブルの拡散係数がバブルの直径の4乗に反比例して変化していることも明らかになり、このことからバブルの運動はバブル表面の原子の拡散によるものであるという結論が得られました。


参考文献

K. Ono et al., In-situ Observation of the Migration and Growth of Helium Bubbles in Aluminum, J. Nucl. Mater., 191-194, 1269 (1992).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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