8.3 放射線照射で絶縁物にも電流が流れる
   


図8-5  絶縁体のエネルギー準位(バンド構造)

電子は価電子帯に詰っていて、伝導帯は空の状態です。価電子帯の電子が放射線によって伝導体に励起され電気伝導に寄与します。

 

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図8-6  14 MeV中性子照射による酸化アルミニウムの電気抵抗の変化

横軸は時間(秒)を、縦軸は中性子束及び電気抵抗の変化を表しています。中性子発生に伴って(550秒付近) から電気抵抗が急激に減少しています。照射停止後(950秒付近) からのゆっくりした電気抵抗の回復は残留ガンマ線の影響によるものです。

 


 放射線によって材料の性能が劣化することはよく知られています。核融合炉の種々の装置(プラズマ計測、プラズマ容器等)に、絶縁材料としてセラミックスの使用が検討されています。放射線によるセラミックス材料の絶縁不良は、核融合炉設計において考慮されるべき重要な要素です。絶縁不良には2つの原因があります。1つは、放射線による材料の劣化(結晶性の乱れ)に起因した恒久性の絶縁不良であり、もう一方は放射線照射時に誘発される一過性の現象ですが、絶縁不良の大きな要因となっています。この後者の過程を絶縁体のエネルギー準位をもとに図8-5に示しました。放射線によって、価電子帯に充満している電子が伝導帯に励起されて、電気伝導(絶縁不良)に寄与する過程を示しています。
 世界に先駆けて、14 MeV中性子照射時の電気抵抗の変化を測定した結果を紹介します。核融合中性子工学用中性子源(Fusion Neutronics Source: FNS)を用いて、14 MeVの中性子を代表的なセラミックス材料である高純度酸化アルミニウム単結晶に照射したときの電気抵抗の劣化を図8-6に示しました。中性子照射に伴って(横軸 550秒付近)、電気抵抗が急激に減少し、照射停止に伴って急激に回復しています。照射停止後のゆっくりした回復は、中性子照射に伴う残留ガンマ線の影響です。実際の核融合炉では吸収線量率が103〜104グレイ/秒であると予想されるので、酸化アルミニウムの電気抵抗値は107〜106Ωmまで減少すると予想されます。


参考文献

K. Noda et al., First in situ Measurement of Electrical Resistivity of Ceramic Insulator during Irradiation with Neutrons of Energy 14 MeV, Fusion Eng. Des., 29, 448(1995) .

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1996
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