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標準的な超伝導体の物性は、「2個の電子がペア(クーパー対)を作ることで励起状態から一定幅のエネルギー・ギャップで隔たった基底状態に全ての粒子が凝縮し抵抗なく流れることで超伝導状態が現れる」というBCS理論によって見事に説明されます。スピンが1/2の場合、1つの量子力学的状態が1つの電子によって占有されてしまうのですが、電子2個からできたクーパー対ではスピンが0または1という整数値になるので、量子力学の原理によって、このような凝縮が可能になるのです。しかし高温物質を代表例として新しい超伝導物質においては、クーパー対がどのようにできて特性がどのように決まるのか理解されていないことが多くあります。 ウラン化合物超伝導体のUPt3は、超伝導転移温度が0.5K付近に二つあって図1-7に示すような3種類の超伝導相A、B、Cが存在するという特異な物質です。この特異性は、標準的超伝導体の場合とは違って、上に述べたエネルギー・ギャップに異方性があることに基づくものなので、1個の電子のまわりに他の電子が球対称に分布しているs波状態の電子によってクーパー対が作られているのではないことはわかっています。しかし、クーパー対を作る2つの電子のスピンの向きが反対なのか同じなのか、これに対応して2個の電子を入れ替えたとき波動関数の符号が同じであるような軌道角運動量をもっている(遇パリティ、d波など)のか、そうではない(奇パリティ、p波など)のかは、世界中で続けられてきた努力にもかかわらず、わかっていませんでした。私たちは極めて純度の高いUPt3単結晶の育成に成功し、NMRによって外部磁場による磁化のスピン寄与分(スピン帯磁率)を測定して、2個のスピンが同じ方向を向いていることを示し、これによってUPt3が初めての奇パリティ超伝導体(図1-8)であることを明らかにしました。 |
参考文献
大貫惇睦他,UPt3の純良単結晶育成と奇パリティ超伝導,原子力工業,43,47(1997). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997 Copyright(c) 日本原子力研究所 |