1.5 レーザーで叩いてビームを制御する
   


図1-9  横軸にビームの進行方向の位置(z)、縦軸にその方向の運動量(Pz)をとったときのビーム粒子の分布の模式図

z方向に領域分けして、各領域毎に運動量方向の重心が横軸上になるように制御します。

 


図1-10   ビームの位相空間における冷却の様子(a〜c)。Nはビームの周回数

Nが増加すると、ビームのしめる領域の大きさが急速に小さくなって、ビームが冷却されたことがわかります。

 


 粒子加速器の目的は、荷電粒子ビームのエネルギーをより高くすることですが、位相空間(粒子の位置と速度を座標にした空間)内の粒子ビーム分布を制御して質の高いビームを得ることもとても重要です。私たちは、ビーム制御一般について研究を進めていますが、中でも重要な課題はビーム中の粒子のエネルギーや方向を揃えるいわゆる「冷却」のための良い方法を確立することです。ビーム粒子の持つエネルギーや運動方向のばらつきは「熱」と解釈できるので、エネルギーや方向の揃ったビームは「冷たい」ビームといえるのです。このたび、エネルギーの揃った電子ビームを実現するために「レーザー・ビート波冷却法」と名づけられる方法を提案し、コンピュータ・シミュレーションによってこの新しい方法が有効であることを確認しました。
 ビームの微細な内部構造を観測してフィードバック制御する能動的ビーム冷却法の代表であるストカスティック冷却法は、陽子加速器中のビームの冷却に実験現場で有効に使われています。この方法では制御すべき粒子の位置情報の中に膨大な数の周辺粒子の情報がノイズとして含まれてしまうので、効果は統計的であって冷却効率は良いとはいえません。また、いくつかの理由から電子ビームの冷却にはそのまま使うことができません。新しく提案した方法では、まず、ビーム中の粒子の「速度分布の重心」を空間分解して測定します。次に、複数の波長成分を持つレーザー光とアンジュレータ磁場(空間的に振動する外部磁場)との組み合わせでできるビート波の空間構造が、この速度分布の空間構造をちょうど打ち消すように制御してビームのエネルギーがなるべく揃うようにするのです(図1-9)。シミュレーションによれば、この方法でビーム粒子が位相空間に占める体積が急速に減少し(図1-10)、これに応じてレーザー光の位相空間における体積が増加することを確かめました。


参考文献

Y. Kishimoto et al., Phase Space Control and Consequence for Cooling by Using a Laser-Undulator Beat Wave, Phys. Rev. E, 55 (5-B), 5948 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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