1.6 中性子が探る磁性体の不思議な構造変化
   


図1-11  CePの温度−圧力相図

 


図1-12  CePに圧力をかけたときの磁気モーメントの並び方の規則的な変化

:Γ8状態のCe原子磁気モーメント、↑:Γ7状態のCe原子磁気モーメント、・:Γ7状態のCe原子磁気モーメントが秩序化していない状態を示しています。

 


 希土類元素の一つであるセリウム(Ce)の化合物CePに一定の圧力をかけて温度を下げていき、外部磁場に対してどの程度磁化するかを示す帯磁率や電気抵抗あるいは比熱といったマクロな量のふるまいを観測すると、最初常磁性体相であったものが温度Tc2でb相、温度Tc1でa相と呼ばれる相に相転移します。
 私たちは、中性子散乱実験を行いCePのこの特異なふるまいが原子のレベルでの、どのような現象に対応しているのかを明らかにすることに成功しました。中性子は磁気モーメントを持ったミクロな磁石なので、原子核によって散乱されるだけでなく磁性体の原子によっても散乱されます。この散乱は磁性体の相転移の状況を知る上で極めて重要な情報を与えてくれます。この中性子散乱の特質を生かして求めたCePの温度−圧力相図と相図の各相でのミクロな原子磁石の並び方を示したものが図1-11と図1-12です。CePのCe原子は大きい磁気モーメント(強い磁気)を持つ状態(Γ8状態)か小さい磁気モーメントを持つ状態(Γ7状態)のいずれかをとります。a相では、大気圧でΓ7 状態の原子が一つずつ交互に向きを変えて並んだ反強磁性体の秩序構造が実現していますが、圧力を上昇させるにつれ規則的にその構造が変化して約2.0GPaの圧力になると2個ずつペアになったΓ8状態の原子による反強磁性体が出現します。また、b相では基本的にΓ7 状態の原子は乱雑な向き(常磁性状態)を持っており、同じ向きのΓ8状態の原子だけからなる強磁性体の秩序構造が実現していますが、圧力を上昇させるにつれ、やはり規則的にその構造が変化していきます。この構造変化は今まで他の磁性体では観測されていない新しい現象です。


参考文献

T. Osakabe et al., Novel Magnetic Structures of the Low-carrier System CeP under High Pressure, Phys., B, 230-232, 645 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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