3.4 陽電子が見たシリコン結晶の欠陥構造
   


図3-6  電子線および水素イオン照射シリコン結晶を熱処理したときの陽電子寿命

高温で陽電子寿命が延びることから、電子線照射で生じた欠陥は熱処理により、四重や六重のより大きな欠陥へと成長していることがわかります。水素イオン照射の場合は、高温で陽電子寿命が減少することから、空隙サイズの小さな空孔-水素複合欠陥が生成していることがわかります。

 


図3-7  シリコン結晶中の空孔などの照射欠陥構造

図3-6中のA、B、C、Dの各欠陥構造に対応しています。

 


 メモリーなどのシリコン半導体素子は今日、パソコンをはじめ多くの電気製品に広く使用されています。このようなシリコン素子はイオン打込み、エッチング、熱酸化、洗浄など数多くの工程を経て作られます。イオン打込みの工程では格子欠陥の生成や結晶の非晶質化が起ります。また、水洗浄などの工程では水素原子が取り込まれます。シリコン素子の微細化が進みサブミクロンの加工が行われている現状では、これらの微小な格子欠陥や水素原子の挙動が、素子の特性を左右するものとして大きな問題となっています。
 陽電子(ポジトロン)は電荷がプラスである以外は電子と同じ性質を持つ粒子で、結晶中の空孔などの欠陥に捕獲され、そこで電子と結合して消滅します。この陽電子寿命を測定することによって、他の測定方法では得られない原子レベルの大きさの空孔型欠陥の状態がわかります。私たちは、シリコン半導体に電子線や水素イオン照射を行い、結晶中の空孔型欠陥や水素原子の挙動を陽電子消滅法により研究しています。N形半導体では、空孔とリン原子対などの微小な欠陥が昇温により移動・結合して安定な四重や六重の空孔型欠陥となったり、また、空孔と水素原子の複合体が形成されていく過程が明らかになりました。


参考文献

A. Kawasuso et al., Vacancy-Hydrogen Interaction in Proton-implanted Si Studied by Positron Lifetime and Infrared Absorption Measurements, Mater. Sci. Forum, 255-257, 548 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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