3.5 原子レベルの複合材料―ニオブ/銅 多層膜―の作製に成功
   


図3-8  2.7MeVのヘリウムイオン(4He+)ビームを用いたNb/Cu(各50ナノメートル厚)多層膜(サファイア基板)のラザフォード後方散乱(RBS)スペクトル

 後方散乱されたヘリウムイオンのエネルギーと数から、多層膜表面からの深さ方向の元素の分布が10ナノメートルの精度で得られます。
 赤い線は結晶軸に沿って、青い線は結晶軸をずらしてヘリウムイオンを多層膜に入射した場合です。

 


図3-9  分子ビーム蒸着中のサファイア基板温度と多層膜の結晶性

種々の条件で作製した多層膜のNb及びCu単結晶層によって後方散乱されたヘリウムイオン数(図3-8の赤い線と青い線の比)から求めました。サファイア基板の温度が500℃以上で結晶性の良い単結晶が得られることを示しています。

 


 異なった金属を相互に積み重ねたナノメートル(10-9m)厚みの金属多層膜は酸化物高温超伝導体の二次元モデル材料として、また、X線用反射材料の基礎技術として期待されています。このためには、耐熱性の高い材料を選び、多層膜の各界面が原子レベルで平滑で、相互拡散のない単結晶膜を積層する技術が重要です。
 私たちは、サファイア単結晶(a-Al2O3)基板の上に、高融点のニオブ(Nb)と熱伝導率の高い銅(Cu)の二つの金属を50ナノメートル厚みで交互にエピタキシャル成長(ある単結晶基板の上に、異なる単結晶を特定の結晶軸方向で成長)させ、規則正しい単結晶の金属多層膜の作製に初めて成功しました。そして得られた多層膜のNb/Cuの周期性や高い結晶性を評価する技術を確立しました。多層膜の作製には分子ビーム蒸着法を用い、基板の温度を制御しながら行いました。作製した膜は最も密な結晶面であるCu(111)/Nb(110)面の積層で、極めて平滑な界面が得られ、また、この界面が750℃の高温でもニオブと銅原子の相互拡散が認められず、耐熱性にも優れていることがわかりました。


参考文献

S. Yamamoto et al., Characterization of Single-crystalline Cu/Nb Multilayer Films by Ion Analysis, Proc. 4th Int. Symp. on Functionally Graded Materials, Oct. 21-24, 1996, Tukuba, Japan.

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
Copyright(c) 日本原子力研究所