4.2 再処理をより安全に行うために
   ―有機溶媒と硝酸水溶液の基礎化学特性の解明―
   

表4-1  TBP-ドデカン-HNO3(aq)系の有機相 中で生成が確認された化学種

 


図4-3  TBPの濃度が1mol/lのとき、有機相に存在する化学種の濃度と水相の硝酸濃度との関係

 


 使用済みの核燃料を再処理(再利用のため、ウランとプルトニウムを分離すること)するとき、使用済核燃料を濃硝酸で溶解し、この硝酸水溶液からリン酸トリブチル(TBP)という抽出剤を用いてウランとプルトニウムを有機溶媒であるドデカン相に抽出分離します。しかし、TBPは基本的に塩基としての性質をもつため、金属イオンばかりでなく、硝酸や水をも抽出します。特に、TBPと硝酸との間の相互作用は強く、錯体(付加物)を生成することが知られています。この溶液中のウランやプルトニウムなどの金属イオンの挙動を知るためには、溶液中の硝酸の挙動を完全に知っている必要があります。このため、TBPによる硝酸の抽出平衡は40年以上にわたって大いに研究されてきましたが、どのような錯体が生成するかという基本的なことに対しても、研究者の間で意見が一致しているとは言えません。私たちは、活量変化の本質をも考慮した詳細な平衡論に基づいて、長年の懸案であるTBP―硝酸溶液中のTBPと硝酸の錯形成、あるいはTBPの水和の解明について明確な結果を得ることができました。表4-1には、有機相(ドデカン相)で生成が確認された化学種を示します。また、図4-3は、TBPの濃度が1mol/lのときに有機相に存在する化学種の濃度が、水相の硝酸濃度によってどのように変化するかを示しています。
 ここで得られた知見は、再処理をより安全に、かつ効率的に行うために活用されることが期待されます。


参考文献

H. Naganawa et al., Complex Formation between Tributyl Phosphate and Nitric Acid and the Hydration of the Complexes in Dodecane, Bull. Chem.Soc. Jpn., 70 (4), 809 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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