4.6 チェルノブイルの放射性核種はどう動く?
   ―放射性核種移行メカニズムの解明―
   


図4-10  サハン川近辺の森林土壌中放射性核種濃度(1995 年9月採取)

採取した試料を有機物層(腐植の進み具合により3 層に分割)、鉱物土層に分離し、核種分析を実施しました。図の通り有機物層の濃度が鉱物土層よりもかなり高く、表層有機物層の放射性核種の保持、移行に及ぼす役割が非常に大きいことが分かりました。

 


図4-11  チェルノブイル事故地域の河川流域に蓄積している放射性核種の相対的移動度(サハン川、1995年)

Cs-137の移動度を基準にした相対的移動度はSr-90がもっとも高く、Pu同位体がもっとも低くなっています。Am-241を除く核種の移行傾向はこれまでの知識から予想される結果です。PuやCs-137に比べてAm-241が移動しやすいことは長半減期の核種の将来動向を評価する上で重要な示唆を提供しています。

 


 原子力施設の稼動に伴って環境に放出された放射性核種がどのような経路を通って人間に到達するかを精度よく評価、予測できることが原子力施設の安全な運用を行う上で必要です。このため私たちは、これら放射性核種の環境中での挙動の詳細を明らかにし、高い精度で人間への影響を評価できる手法の開発を目指し、研究を続けています。
 チェルノブイル原子炉事故サイトは、核実験のフォールアウトでもよく知られたセシウム(Cs)やストロンチウム(Sr)の他に原子炉燃料のウランやプルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム等の超ウラン元素で汚染された特異な環境を形成しており、上に述べた研究・解明を進めるための研究サイトとなっています。現在、調査研究はチェルノブイル原子炉サイト周辺30km圏内の、チェルノブイルの町から6km以内の河川および森林を対象に進められており、土壌や河川水の物理・化学的性状、放射性核種の存在状態の調査・分析を通して、陸域から河川への核種別の流出機構が明らかになりつつあります。


参考文献

T. Matsunaga et al., Migration Behavior of the Released Radionuclides in the River System in the Exclusion Zone of the Chernobyl Nuclear Power Plant, IAEA-CN-63/143, One Decade After Cernobyl : Summing up the Consequences of the Accident (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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