5.2 炉内黒鉛構造物の劣化状態を知る
   


図5-3  黒鉛材料の応力-ひずみ線図

残留ひずみの発生している部分では応力-ひずみ曲線の傾きはQ点で示すように、発生していないP点の傾きよりも緩やかとなります。すなわち、残留ひずみの発生に伴い材料の変形抵抗は小さくなります。

 


図5-4  黒鉛材料の押し込み荷重-深さ曲線

黒鉛材料に0%および0.2%の模擬残留ひずみを与え、ダイヤモンド圧子を押し込んだ際の典型的な押し込み荷重と押し込み深さの関係。模擬残留ひずみを与えると、材料の変形抵抗が小さくなるため、押し込み深さは大きくなり、硬さ値が小さくなります。つまり、硬さ値を調べることにより、発生している残留ひずみの量を推定することができます。

 


 高温工学試験研究炉(HTTR)は炉心出口ガス温度が約950℃と高温であるため、炉内構造材料には耐熱性に優れた黒鉛材料が用いられています。この黒鉛材料は中性子照射を受けることにより寸法が変わるため、黒鉛構造物には原子炉の運転とともに残留ひずみが蓄積されてしまいます。このため、供用期間中に構造物内部に蓄積した残留ひずみ量を知る必要があります。
 この残留ひずみの計測法には、残留ひずみの蓄積した箇所の切断により残留ひずみを開放したときの変形から推定する「切断法」やX線回折による方法等があります。しかし、供用期間中には、複雑な形状で中性子照射により放射化された構造物に蓄積された残留ひずみを遠隔操作で非破壊的に調べる必要があることから、今までの方法には限界があります。そこで、構造物に損傷を与えないように非破壊的に残留ひずみを知る方法として、残留ひずみが発生することにより黒鉛の荷重下の変形抵抗が変化することを利用した方法を開発しました。変形抵抗の変化はダイヤモンド圧子を残留ひずみの生じている表面に押し込むことにより計測します。この方法をHTTR炉内黒鉛構造物の供用期間中検査法として応用することにより、過酷な条件で使用される構造物の健全性が確保されます。


参考文献

石原正博他,微小変形特性を利用した炭素材料の残留ひずみ計測法の開発,日本機械学会論文集62(A)(620),2305(1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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