7.1 光りを当ててアクチノイド化合物の運動を探る
   


図7-1  共鳴ラマン散乱と“通常”ラマン散乱の違い

 


図7-2  ウラニルイオン対称伸縮振動 (835cm-1)の励起波長依存性

 


 アクチノイド化合物の電子的励起状態の構造を探る一つの方法として共鳴ラマン散乱を取り上げ、ラマン散乱強度の測定から励起分子の構造を知るための研究を進めています。共鳴ラマン散乱(又は共鳴ラマン効果)は、図7-1に示すように、試料の電子吸収の波長と励起光の波長が一致する場合に起こります。このとき観測されるラマン散乱の試料分子あたりの強度は、“通常”のラマン散乱に比べて異常に大きくなることがあります。このような共鳴ラマン散乱を、アクチノイド化合物としては初めて硝酸ウラニル(UO2(NO32)においても観測することができました。電子基底状態において、ウラニルイオン(UO22+)は直線構造で、3個の基準振動(逆対称伸縮振動、対称伸縮振動、縮重変角振動)を有し、また、可視部の430nm付近に強い電子吸収帯をもっています。これらの基準振動のうち、波数835cm-1付近に観測される対称伸縮振動(←O-U-O→)が共鳴ラマン効果を起こし、図7-2に示すようにそのラマン線の強度はレーザー励起線の波長変化に大きく依存することがわかりました。これにより、電子的励起状態におけるウラニルイオンは対称振動、すなわち結合軸(O-U-O)の方向に沿って変形し、結合が約0.014nmほどのびていることが結論されます。


参考文献

K. Ohwada et al., Excitation Profile of Resonance Raman Effect of Uranyl Nitrate in Acetone, Spectrochim. Acta, 52A(2), 149(1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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