10.2 10テラワットの世界最短パルス・レーザーの発振に成功
   

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図10-3  10テラワット級Tキューブ・レーザーのパルス波形の実測値

 

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図10-4  開発したレーザーにおいて達成した技術

 


 机の上にのるぐらい小さくて出力がテラワット(1TW=1012W)にも達するようなレーザーを、Tキューブ・レーザーと 呼びます。このような小型で超高出力を達成するには、同時に、極端に短いパルス幅のレーザー光を実現しなければなりません。小型で超高出力極短パルスのレーザーができれば、X線レーザーやレーザー加速を利用した粒子加速器が実現する他、その小型で高性能であることを利用して医療現場や生体物質研究の現場での活用等その応用範囲の広さは計り知れません。
 Tキューブ・レーザーの実現のめどがたったのは、低強度短パルス・レーザーからパルス拡張・増幅・圧縮の過程を経て高出力短パルス・レーザーを発生させるチャープ・パルス増幅法が発明されたことによります。しかし、出力が高くなるにつれてレーザー光自身がレーザー光のふるまいを支配する「非線形効果」が大きくなったり、大きな出力のために光学部品が破損したりして、世界的にも、20フェムト秒(1fs=10-15s)程度より短いパルス幅の超高出力レーザーは今まで実現されていませんでした。私たちは、昨年カリフォルニア大学と共同で、ピーク出力が4テラワットでパルス幅18フェムト秒のTキューブ・レーザーを開発することに成功しました。その技術を基に今回、ピーク出力9.5テラワットでパルス幅16.6フェムト秒(図10-3)の超高出力極短パルス・レーザー光の発生に成功しました。これは10テラワット級Tキューブ・レーザーのパルス幅としては世界最短のものです。
 この成功は、パルス拡張器・圧縮器を高精度で調整する技術、超高出力時にパルス幅が広がるのを抑える技術、及びレーザー出力の超安定化技術を確立できたこと(図10-4)によります。今後はこの技術を基礎にして100テラワット、1,000テラワットのレーザー開発を段階的に進めていく予定です。


参考文献

K. Yamakawa et al., All-Solid-State Mirror-Dispersion-Controlled Sub-10fs Ti : Sapphire Laser, Jpn. J. Appl. Phys., 35, L989 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1997
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