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図1-1 予想されている中性子星の構造
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陽子や中性子、パイオンなどからなる物質をハドロン物質(または核物質)と呼びます。ご存じの通り原子核はその代表ですが、核力、クーロン力とパウリ原理の釣り合いにより数fm(1
fmは10-15メートル)という極めて微小な半径の球状をしています。また、どの原子核もだいたい同じような密度(これを標準原子核密度と言い、r0と書かれます)で、一様な分布をしていることが知られています。
では巨視的な核物質の系はというと、中性子星や、それが誕生する初期段階の超新星という形で存在します。中性子星は半径約10kmの主に中性子からなる天体で、中心密度は標準原子核密度の数倍ありますが、表面付近はそれよりずっと低い密度になっています(図1-1)。これら低密度の核物質は、超新星爆発が起こる際の爆発の強度を左右するニュートリノの吸収過程に影響したり、中性子星自転周期の変調の一因と考えられている原子核と中性子超流体渦系との相互作用など、天体現象を決定する重要な役割を果しています。しかし、その構造についてはまだ良く分かっていません。
極微な原子核反応の研究に用いられる分子動力学は、構成粒子の位置や運動量を一つ一つ詳細に知ることができ、計算を行う上で仮定しなくてはならないものが非常に少ないという特長があります。この分子動力学の手法で巨大な核物質の基底状態を調べたのが図1-2です。密度が原子核標準密度より低くなると、一様であった分布にムラができ、板状や棒状、球状といった構造が現れてきます。このような構造の変化は、従来の研究でもある程度予想されていたことですが、この分子動力学を用いた研究によって、構造が完全には規則的でなかったり、小さな粒子が混在している等の新しい結果を得ることができました。このようなハドロン物質の構造の細部を明らかにし、天体の現象に与える影響を調べることが今後の目標の一つです。
参考文献
T. Maruyama et al., Quantum Molecular Dynamics Approach to the Nuclear Matter below the Saturation Density, Phys. Rev., C, 57(2), 655 (1998). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998 copyright(c)日本原子力研究所 |