1.3 ウランの超微弱核磁気共鳴を測定する
   

図1-5

235Uの核磁気共鳴(NMR)の原理図  

核スピンをもつ原子核を磁場中におくと磁場の強さに応じた周波数の電波を吸収します。通常のNMRは外部から磁場をかけますが、今回の235U核の実験の場合は、まわりの電子雲がつくる局所磁場を利用して電波の吸収を観測します。

図1-6

50〜250 MHz(メガヘルツ)帯にみられた235U核の共鳴吸収線

 235U(核スピンI=7/2)は磁場中で2I+1、すなわち8個の準位に分かれ、となり合うエネルギー準位の間で電波の共鳴吸収が起こります。さらに5 f 電子が235U核位置につくる電場に勾配があるために、7本の共鳴線が分離しています。


 核スピンをもつ原子核が磁場中で吸収する電波をしらべる核磁気共鳴(NMR)分光法は、その原子核のまわりの電子状態の情報を得るのに有用です。
 ウランなどのアクチノイド元素は、5 f 電子軌道のために極めて多彩な性質を示し、超伝導や半導体などの研究が世界的に盛んになってきています。私たちは、NMRを通してアクチノイドの物性に挑戦する道を世界で初めて開拓しました。
 これまでにウラン核のNMR測定が困難であると言われてきたのは、天然ウランの99.3 %を占める238Uに核スピンが存在しないこと、わずか0.7 %の235UもNMR相対感度が低いなどのためでした。私たちは、まず235U 93 %の高濃縮ウランを使い、そしてウランと酸素の比が正確に1:2となるような1 gのUO2焼結体を調製しました。UO2結晶は、30.8 K(ネール温度)以下で、ウラン原子の磁気モーメントが交互に逆方向に並んで全体としては打ち消し合うという反強磁性構造をとります。注意深く235UO2結晶を作製し、温度1.5 KでウランのNMR信号の測定に初めて成功しました。235U核スピン7/2から予想される7本の共鳴吸収線が明確にみられます。NMRでは、注目する核のまわりの電子の状態に関する情報が得られるため、ウラン化合物の物性研究に威力を発揮するものと期待します。


参考文献

K. Ikushima et al., Observation of 235U NMR in the Antiferromagnetic State of UO2, J. Phys. Soc. Jpn., 67 (1), 65 (1998).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
copyright(c)日本原子力研究所