1.4 中性子で見えた超伝導と磁性との関係
   

図1-7

重い電子系超伝導体UPd2Al3の中性子非弾性散乱プロフィールの温度依存性で、磁性に関する情報が含まれています。超伝導転移温度1.95 K以下で、ΔE = 0.4 meV付近に現れるピークが今回発見されたものです。

図1-8

実線はUPd2Al3の磁気励起ギャップの温度依存性。点線は超伝導のBCS理論から予想される超伝導エネルギーギャップの温度依存性。両者の温度依存性が一致することは、磁性と超伝導の強い結びつきを示しています。


 かつては、磁性と超伝導は互いに相反する性質で、例えば磁性金属は超伝導を示さないと考えられていました。しかし、後に磁性と超伝導が共存する重い電子系超伝導体が発見され、現在、磁性と超伝導の関係の解明は固体物理学の中心的な課題になっています。
 ウラン化合物超伝導体のUPd2Al3は重い電子系超伝導体の代表的なものの一つです。ネール温度14.5 K以下では反強磁性になり、超伝導転移温度1.95 K以下では超伝導と反強磁性とが共存します。ところが、これまでの実験では磁性と超伝導の関係を示す証拠が得られていなくて、この物質では磁性と超伝導は無関係であると考えられてきました。
 私たちはこの物質に興味を持ち、高分解能の中性子散乱実験を行いました。散乱強度の測定精度は0.1 %と、従来のものより1桁よくし、また測定温度範囲を0.2 Kまで下げました。その結果、超伝導転移温度以下で超伝導ギャップに対応する励起エネルギーを持つ非弾性散乱ピークの観測に成功しました(図1-7)。これはこの物質の磁性と超伝導が強く結びついていることを直接示すもので、重い電子系超伝導体では初めての発見です。そのほかの測定データも含めて、得られた一連の結果は、この物質の超伝導が磁気的起源を持つことを示しています。


参考文献

N. Metoki et al., Superconducting Energy Gap Observed in the Magnetic Excitation Spectra of a Heavy Fermion Superconductor UPd2Al3, Phys. Rev. Lett., 80(24), 5417 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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