2.3 核融合炉のヘリウム灰を除去する新アイディア
   

図2-5

(a)ICRF波によるヘリウム灰排出法の概念図
(b)ヘリウムイオンの排出機構

 プラズマの境界近くで荷電交換で生じたヘリウムイオンをICRF波で選択的に加熱し、磁場に垂直方向のエネルギーを与えて、トロイダル磁場の弱い部分に追い込みます。磁場の弱い部分に入ったヘリウムイオンは、そこに停滞し磁場の勾配によって自然に生ずる流れで、第一壁の一定の限られた領域に導かれるので、その場所に排気ダクトを設ければ、炉外に容易に排出することができます。他のイオンは周回イオンとして磁力線に沿って運動し、磁場によって閉じ込められます。

図2-6

核融合出力とヘリウム灰密度の時間変化  

 ICRF波によるヘリウム灰排出を時間300秒から始めています。核融合出力は300秒までは、ヘリウム灰が炉心に蓄積して核融合反応率が低下するため1.2 GWまで下ります。ICRF波を入射してヘリウム灰排出を開始すると、ヘリウム灰密度は約40%低下し、核融合出力は1.5 GWまで上昇することが示されています。(1 GW=1,000 MW)


 DT核融合炉では、DT反応出力を安定に持続させるため、炉心プラズマ加熱の役を終えた温度の下ったヘリウムを“燃焼灰”として効率良く炉外へ排出する工夫が必要です(2-1参照)。一つの方法として、イオン・サイクロトロン周波数帯(ICRF)の電磁波によってプラズマ周辺部でヘリウム灰を僅かに加熱し、トロイダル磁場の強さの空間的変化(リップル)をうまく利用して炉心部のヘリウム灰を第一壁の一定の限られた場所に導き、排気、除去するという提案がなされています(図2-5(a))。図2-5(b)に示すように、トカマク装置では、トロイダル磁場コイルがとびとびに配置されているため、磁場の強さがドーナツ方向に沿って強弱に変化するリップルが形成されます。
 原研ではこの提案の有効性を定量的に検証するため、ITER規模のトカマクを想定して軌道追跡モンテ・カルロ法による総合的な数値シミュレーションを実施しました。
 図2-6にシミュレーションの結果の一例を示します。この場合ヘリウム灰排出のためのICRF波の入射パワーは10 MWで、この程度のパワーで核融合出力を300 MW程度上昇できることが明らかになり、この方法の有効性が示されました。ヘリウム灰は、“リップル損失”の特性上プラズマから一定の方向に局限して排出されますが、その大きさは、トロイダル方向に約1.3 m、ポロイダル方向に約0.7 m程度であることもわかりました。ヘリウム灰排出は核融合炉開発の主要課題であり、今後も多くの研究が必要です。


参考文献

K. Hamamatsu et al., Numerical Analysis of Helium Ash Removal by using ICRF-driven Ripple Transport, Plasma Phys. Control. Fusion, 40, 255 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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