3.1 ウラン酸化物の酸素ポテンシャルを正確に測定する
   

図3-1

ウラン酸化物等の酸素圧測定に威力を発揮する固相電池起電力測定装置の概略図

本装置は、これまでのものと比較して小試料でも測定可能に設計されています。小試料化(3 mm径、2〜3 mm厚)することによって、クーロン滴定により標準物質側からジルコニア固体電解質をとおして一定量の酸素を試料へと移すことができ、この方法によって一個の試料で様々の酸素不定比組成(x)の酸素ポテンシャルを連続測定することが可能になりました。

 

図3-2

1,000℃でのGd置換量(y)の異なるウラン酸化物 

U1-yGdyO2+xの酸素不定比組成(log xで示す)と酸素ポテンシャルg(O2)すなわち酸素活量aO2(log aO2で示す)との関係を表わしています。図中の曲線の数字はUとGdの組成比に関連したyの値を示しています。  また、実線は実験から求めた理論曲線、点線はその外挿したもの、シンボルは実験値です。


 近年発電コストを下げるために燃料を原子炉の中でできるだけ長時間燃やす、いわゆる燃料の高燃焼度化が社会的要請となっています。この要求を満たす燃料として、燃焼に伴う反応度低下を補い、かつ中性子束分布を平坦化させる機能を持つガドリニウム(Gd)(これを可燃性毒物という)を添加した酸化ウランは、大いに魅力ある燃料です。
 高燃焼度の照射環境下では、様々な核分裂生成物(FP)が生成し、これらはGd添加ウラン酸化物と反応して固溶体を形成し、燃料自身の性質、FPの存在状態、被覆管と燃料との相互作用などに大きな影響を与えます。この様な燃料の照射挙動を左右する重要なパラメーターは、燃料の持つ酸素ポテンシャル(平衡酸素圧)です。例えば、燃料の酸素ポテンシャルの大小によって、生成したFPのうちのどの元素が(どの程度)酸化されるか知ることができます。しかしながら、この燃料体系の酸素ポテンシャルに関する報告は少なく、かつ断片的なデータしかありません。
 図3-1に示すような精緻な固相電池起電力測定装置を用い、高度な測定技術を駆使し、U1-yGdyO2+x系のウラン酸化物燃料について広範囲な温度にわたって酸素不定比組成(x)、Gd置換量(y)を変えて、酸素ポテンシャルg(O2)の正確な測定を系統的に行いました。得られた測定値の熱力学的解析から本系の酸素ポテンシャル g(O2)を、温度(T)、Gd置換量(y)および酸素不定比組成(x)の関数として示しました。その成果の一例を図3-2に示します。本研究データから、x一定では、本系の酸素ポテンシャルg(O2)は、Gd置換量yの増加とともに、大きくなっていく挙動が定量的に明らかになりました。本研究で得られたデータは、このような熱力学的視点から、高燃焼度燃料の挙動を評価していく上で、今後大いに役立つものと期待されます。


参考文献

A. Nakamura, Thermodynamic Study of U1-yGdyO2+x by Solid State EMF Measurements, Z. Phys. Chem., 207, 223 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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