3.2 蒸気を調べてプルトニウム燃料の熱的安定性を知る
   

図3-3

高温蒸気圧測定装置の原理  

蓋の部分に直径0.5 mm程の小さい孔の開いたクヌーセンセルと呼ばれる容器の中で、試料を高温に加熱し、気相(蒸気)と固相(試料)の平衡状態を作り、孔から射出する蒸気をイオン化させて、質量分析計で蒸気種を分析します。

 

図3-4

SrPuO3 + PuO2上の蒸気圧の温度依存性  

高温ではSrの蒸気圧がPuOのそれに比べて二桁以上大きい値を示すことから、SrPuO3複合酸化物は、まずPuO2とSrと酸素に分解し、続いてPuO2がPuOと酸素に分解すると予想されます。温度が低くなるとPuO2の分解する量は検出限界以下になります。これらの測定結果からSrPuO3の生成の標準エンタルピーなどのデータを得ることができます。


 近年、原子力発電コストの低減化の要請を受けて燃料の高燃焼度化計画が進められています。長時間の燃焼に伴い、酸化物燃料内には核分裂生成物(FP)が蓄積され、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)などの超ウラン元素(TRU)の量が増えてきます。このような照射環境下に置かれる燃料の安全性を評価する上で、FP元素の蓄積にともなって形成する新たな化合物であるペロブスカイト型酸化物(ABO3型)の熱力学データを調べることは大変重要なことです。
 東京大学と共同研究で、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類金属とU、NpおよびPuを含む複合酸化物の熱力学的性質を明らかにする研究を進めています。主にU系の複合酸化物については東京大学が、NpおよびPu系については原研が研究を分担しています。外気に対して負圧に保持されているグローブボックスに設置された高温蒸気圧測定装置(図3-3)を用いて、Sr-Pu複合酸化物の蒸気種を分析することによって、蒸発のメカニズムを調べるとともに、この複合酸化物について初めて蒸気圧、標準生成モルエンタルピーなどのデータを得ることができました(図3-4)。現在BaPuO3についても同様に蒸発挙動の研究を進めています。


参考文献

K. Nakajima et al., Vaporization Behavior of SrPuO3, J. Nucl. Mater., 248, 233 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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