3.3 異常な粒子の観察が鍵
―飛躍的に改善された高温ガス炉燃料の高品質化―    

図3-5

SiC層の破損した被覆燃料粒子(粒子断面の光学顕微鏡写真)

 燃料核が部分的に炭化したためにSiC(炭化ケイ素)層に破損が生じた被覆燃料粒子の例です。SiC被覆工程でSiCが粒子表面に蒸着する際、内側PyC(熱分解炭素)層に亀裂があると燃料核(UO2)の表面で炭素熱還元反応が進行し、発生したCOガスがこの亀裂をとおして外部へ放出されます。この際SiCの蒸着を妨げ、SiC層に欠陥が生じます。

 

図3-6

製造法の改良による高温ガス炉燃料の高品質化  

被覆およびコンパクト成型両工程の改良によってSiC層の破損率がどの程度減少したか理解できます。図中のN=1、2、5および10の点線は、それぞれ燃料コンパクト1個(約13,500粒子)に含まれる破損粒子が1粒(破損率に換算すると7.4×10-5)、2、5および10粒であることを表します。従来技術では、破損粒子が10粒程度ありますが、工程の改良によって、破損率はそれぞれ2〜3粒子および1粒子以下と飛躍的に減少しています。なお、破損率の実測値には統計処理による95 %の信頼限界、すなわち確率的精度を付してあります。


 日本初の高温ガス炉(高温工学試験研究炉)には、約9億個の被覆燃料粒子(直径1 mm)が装荷されます。核分裂生成物を閉じ込めるため、これら燃料粒子の被覆層が破損していないということは極めて重要です。製品の高品質化を図り、不良率を小さくすることは、原子炉の安全性確保および燃料の製造コスト低減に不可欠です。
 高品質化を命題に、被覆層の破損原因を明らかにするため、約100万粒子の中から異常な粒子を選別し、観察しました。その観察を通して被覆層の破損を形態別に分類し、その発生機構を調べました。6種類の破損形態のうち代表的なものの一つ、SiC層破損の様相を図3-5に示します。つぎに、破損の発生原因を取り除くために被覆およびコンパクト成型工程の最適条件を見出す作業を進めました。(1)流動床構造の改良およびガス流量と装荷量の調整による流動床中での粒子の流動状態の最適化、(2)連続被覆法の採用による粒子の装荷・回収時の衝突回数の低減、(3)コンパクト成型条件の調整により成型中の粒子同士の接触抑制などにより、破損率は飛躍的に減少しました。この成果は図3-6に要約されています。日本製は、高温ガス炉燃料の製造では主導的立場にあったドイツ、米国と肩を並べ追い抜くまでにレベルアップされました。現在、両国は燃料製造から撤退しているので、この技術を保有するのは日本のみということになります。


参考文献

K. Minato et al., Improvements in Quality of As-Manufactured Fuels for High-Temperature Gas-Cooled Reactors, J. Nucl. Sci. Technol., 34 (3), 325 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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