3.4 分子の運動から溶液中でのランタノイドイオンの存在状態を知る
   

図3-7

種々の硝酸イオン濃度水溶液における温度因子とランタン-139の磁気緩和時間の関係

温度因子の単位cPK-1のcPは粘度を示すセンチポアズでKは絶対温度を表します。
[La(NO33]= 0.024 mol/・;温度 = 274〜343 K  図における直線の傾きは、ランタン核周りの電子状態を表しており、硝酸リチウム濃度の増加に伴ってランタン周りの構造変化が起こっていることがわかります。

 

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図3-8

硝酸イオン、塩化物イオン系水溶液中のランタンイオンの状態

 硝酸イオン系では、水和ランタンは、水の全体構造の中に組み込まれ、一方塩化物イオンは切り離されていくことを示しています。


 核分裂の様々な過程で生じる三価ランタノイドとアクチノイドは使用済核燃料の再処理で使われる硝酸溶液中でどのような状態で存在するのでしょうか?私たちは、ランタン-139の核磁気共鳴(139LaNMR)という方法を使って、溶液中のランタンイオンの存在状態に関する情報を得ています。核磁気共鳴とは文字通り原子の中心にある核の磁気的共鳴現象のことですが、その共鳴現象は核の周りを取り囲んでいる電子の状態(対称性)の違いを反映しています。その実験結果の一つ、図3-7は溶液の温度因子とラジオ波によって核磁気共鳴を起こした後、核が元の状態に戻るまでの時間(緩和時間:T1)の逆数との関係を見ています。この緩和時間の長さは、先に述べた原子核周りの電子の状態とイオンの溶液内での運動状態とで決まってきます。そこで、溶液の温度を変化させることでイオンの運動状態を変えたとき、図3-7のような関係において傾きの大きさは核の周りの電子の状態を表しています。緩和は、核の周りの電子の対称性が良いほどゆっくりと起り、この場合では傾きは小さい値を示します。逆に傾きが大きいことはその対称性が悪くなったこと(構造変化)を意味します。図3-7の硝酸イオン溶液では直線の傾きが濃度とともに大きくなっています。このような変化は、同じくこのNMRで得られる硝酸イオンと塩化物イオンの回転運動に対する活性化エネルギーの結果とも考え併せると、図3-8に示したように溶液濃度0.05〜3 mol/でもLa3+と硝酸イオン(NO3-)は接近してLaNO32+の形を作っていること、一方、塩化物イオン(Cl-)の系ではLa3+の直接の周囲にはCl-がなく水分子のみが取り囲んでいることがわかりました。さらに塩化物イオン濃度が0.6 mol/以上では、水和したランタンが塩化物イオンの水の網目を壊す効果により、水全体の構造から切り離されていくことなどのLaの姿も明らかとなりました。このようにNMRの手法で、関係する溶液中での状態を詳しく知ることは、化学処理を行う全体の系をより深く把握することになり、再処理などの安全着実な実施のために役立っています。


参考文献

T. Yaita et al., 139La NMR Relaxation and Chemical Shift Studies in the Aqueous Nitrate and Chloride Solutions, J. Phys. Chem. B., 102 (20), 3886 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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