3.6 合成不可能な単結晶を分子線で初めて合成
   

図3-11

分子線エピタキシー法の概略図  

 電子線あるいはヒータなどを用いて原材料を蒸発させ下地(サブストレイト)の上に単結晶を合成させます。

 

(a)X線回折

(b)赤外線吸収スペクトル

図3-12

合成した単結晶のX線回折及び赤外線吸収測定結果

(a)X線回折の鋭いピークと回折角は、良質の単斜晶ZrO2単結晶であることを証明しています。
(b)赤外線吸収からの単斜晶ZrO2であることの証明(不純物、正方晶および単斜晶を含む多結晶体を用いた実験結果と比較して、単斜晶の吸収であることがわかります)。


 物質の基本的性質を知るうえで、単結晶の合成は不可欠の要素です。通常、単結晶はいわゆる熱平衡状態から合成します。しかし、この方法では合成できない単結晶も多数あります。その一例が、ルツボなどの高温材料および水素ガス分離膜として利用されている酸化ジルコニウム(ZrO2)単結晶です。この結晶は高温から立方晶、正方晶、単斜晶と三つの構造を持っています。正方晶から単斜晶への変態は1,170 ℃付近で破壊的に大きな体積変化を伴うために、室温で安定な単斜晶構造の単結晶を合成することは不可能でした。
 図3-11に示したような分子線エピタキシーの方法を用いて、サファイア基板の上に単結晶ZrO2膜を創製することに成功しました。創製した膜の構造をX線および赤外線で調べた結果を図3-12に示しました。回折線の鋭いピークと回折角そして赤外線の透過周波数は、合成膜が単一良質の単斜晶ZrO2単結晶であることを証明しています。このような方法を用いてこれまで不可能であった酸化ストロンチウム(SrO)の結晶などの合成が可能になり、新物質のイオン伝導など多結晶では正確な値が得にくい物質固有の諸性質を測定することができるようになりました。


参考文献

H. Asaoka et al., Epitaxial Growth of Zirconium Dioxide Films on Sapphire Substrates, Appl. Surf. Sci., 113/114, 198 (1997).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
copyright(c)日本原子力研究所