4.1 海水中のごく微量のウランや希少金属を高分子で集める
   

図4-1

放射線グラフト重合によって作られたウラン捕集材

 ポリエチレン繊維の不織布(短い繊維をからみ合わせてフェルト状にしたもの)に電子線を照射してアクリロニトリルをグラフト重合させると、繊維表面にポリアクリロニトリルの分子鎖ができます。これにヒドロキシルアミンを反応させるとアミドキシム基ができ、2つのアミドキシム基でウランや金属の酸化物1個を捕集します。

 

図4-2

海洋におけるウラン捕集実験

 捕集材は、金網の容器に入れられ海洋に設置されました。海流により海水は捕集材中を通り、捕集材はアミドキシム基のある繊維表面でごく微量の溶存ウランや希少金属を選択的に効率よく捕集します。


 海水中には非常に希薄ですが、ウラン、バナジウム、コバルトなど多くの希少金属が溶存しています。海水の量は膨大なのでこれを集めることができれば、莫大な量の金属を得ることができます。たとえば、海水1トン当たり約3 mgのウランが溶存していますが、海水中の総ウラン溶存量は40億トン以上と推定されています。
 原研では、放射線グラフト重合法を利用して、海水中のウランや希少金属を選択的に効率よく吸着して捕集する材料を開発しました。オイルフェンス等に使用しているポリエチレン繊維の不織布に放射線を照射して、グラフト(接ぎ木の意)重合させ、これに捕集のためのアミドキシム型の官能基をつけます(図4-1)。2つのアミドキシム基で挟むようにして1個の炭酸ウラニルイオン(ウラン酸化物と炭酸イオンの錯体)や特定の金属酸化物イオンを選択的に捕らえます。この選択的捕集性はきわめて高く、海水中の食塩(NaCl)分子3,400万個に対して1個の割合でしか含まれていないウラン原子を効率よく捕集します。
 この捕集材を金網の容器に入れ、水温約20 ℃、水深40〜45 mの海域に20日間設置しました(図4-2)。この捕集材は比重が海水と同じであり、自然海流を利用して十分な海水との接触が可能です。実験を8回繰り返し、合計で酸化ウラン16 gと酸化バナジウム20 gが捕集できました。これは捕集材1 kg(不織布の面積で約7 m2)で約1 gのウランを吸着・捕集できたことになり、実用的に極めて有望な捕集材であることがわかりました。


参考文献

須郷高信、海水ウラン捕集技術の開発の現状、日本海水学会誌、51 (1), 20(1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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