4.4 高速で光や電気をスイッチする薄膜材料
   

図4-7

酸化バナジウム薄膜の光透過率と電気抵抗の温度ヒステリシス  

 光透過率は60〜75 ℃の間で約50 %から10 %へ、電気抵抗は65〜70℃の5 ℃ の温度幅で3桁も変化します。すなわち、電気抵抗は65℃の絶縁状態から70 ℃の金属状態まで急激に変化します。

 

図4-8

酸化バナジウム薄膜での結晶構造変化

 薄膜の結晶構造が単斜晶系から正方晶系に相転移することによって、電気絶縁状態から金属状態へ、また、光透過率も大幅に変化します。


 遷移金属、例えば、バナジウムの酸化物(VO2)は68 ℃で結晶構造が変化し、電気抵抗が大きく変わります。このような性質は大きな結晶よりも、結晶を薄膜化することによって利用が格段に広がります。例えば、薄膜に微細なパターンを作って光ファイバーやセンサーなどの温度によるスイッチングに応用できます。しかし、金属酸化物などのセラミックスのごく薄くて、乱れのない単結晶膜をいろいろな基板の上に成長させ、必要とする特性を得ることは非常に難しいことです。
 原研では、VO2薄膜の新しい合成法、すなわち可視光パルスレーザー(YAGレーザーの第2高調波, 波長532 nm, エネルギー2 J)でバナジウムを酸素分圧中(1.3×10-3〜1.1×10-2 Pa)で 蒸発・反応させてVO2とし、高温下でサファイア基板(0001面)上に成長させました。得られた100 nm厚のVO2薄膜は、サファイア基板上に高品質な結晶として成長することがX線回折とヘリウムイオン(He+)の後方散乱測定から明らかとなりました。VO2薄膜の温度を上昇及び下降させて測定した電気抵抗は、68℃近傍で0.8℃の急峻な金属−絶縁体の可逆的な転移を示し、赤外線透過率も同じ温度で急激な変化を示しました(図4-7)。このようなVO2薄膜結晶の温度による急激で可逆的な特性変化は、低い温度側での単斜晶から高い温度側での正方晶への結晶構造の変化によって生じることがわかりました(図4-8)。


参考文献

Z. P. Wu et al., Single-Crystalline Epitaxy and Twinned Structure of Vanadium Dioxide Thin Film on (0001) Sapphire, J. Phys., 10, L765 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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