4.5 いろいろな高融点物質から安全にイオンを取り出す
―SF6を用いた新しいイオン源技術―    

図4-9

イオン源装置とフッ化イオウ(SF6)プラズマによる高融点物質のイオン化

 イオン源のプラズマ室ではタングステンフィラメントから放出された電子が磁場によって動き回り、プラズマ室にあるガスを電離し、プラズマを発生させます。ここに置かれたホウ素(B:融点2,300℃)などの高融点物質は、SF6プラズマ中の活性なフッ素イオン(F+)と反応し、気化しやすいフッ化ホウ素化合物(BFn)となります。気化したフッ素化合物はさらにプラズマ中の電子やイオンにより分解し、電離して目的とするB+イオンを得ることができます。


 イオン照射を利用して先端的材料科学、バイオ技術、アイソトープ製造などの幅広い研究・開発を行うには、目的に適した多種類のイオンを広い範囲のエネルギーに加速して利用者に提供する必要があります。このためには、まずいろいろな物質をイオン化して、これらのイオン種をつくる必要があります。通常、固体物質は加熱してガス化させ、イオン源のプラズマ室に導入してイオン化させます。しかし、ホウ素(B:融点 2,300℃)、モリブデン(Mo:融点 2,610℃)、ケイ素(Si:融点 1,414℃)などの高融点で気化しにくい物質は、単に加熱するだけでは十分な蒸気圧を得ることができません。このため、これらをBF3、SiF4といった気体にして使用しなければならず、これらの毒性または腐食性の強い気体の取り扱いが極めて困難でした。
 原研では、いろいろな高融点物質に使える新しいイオン化技術を開発しました。この方法は、化学的に安定で毒性のないSF6ガスを用い、SF6プラズマ中で解離したフッ素イオン(F+)が高融点物質を気化しやすいフッ素化合物としてガス化させ、さらにこのフッ素化合物をプラズマによってイオン化するものです。しかも、活性なフッ素イオンは非常に反応性が高く、この方法でホウ素を初めとする多くの高融点物質を、毒性ガスなどを使用せずに、より安全にしかも効率よくイオン化することができ、イオンビームとして加速できるようになりました。


参考文献

Y. Saitoh, Y. Ohkoshi, W. Yokota, Production of Multiply Charged Metallic Ions by MINI-ECR Ion Source with SF6 Plasma, Rev. Sci. Instrum., 69 (2), 703 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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