4.7 溶鋼を運ぶ耐熱容器の乾燥状態を中性子で探る
   

図4-13

転炉で精練された高温度の溶鋼を鋳造工程へ運ぶ耐熱容器

 この容器(外径、高さともに約4m)は、外側が鉄板、内側は厚い耐火材(黄色に輝いている部分)でできています。上蓋から吹出しているのがバーナーガスです。バーナーで耐火材乾燥中は、上蓋は閉じています。

図4-14

高感度水分計開発に用いたモデル実験装置

鉄板の外から、この内側にある厚い耐火材中の微量水分をできるだけ感度良く測定するためには、中性子線源と検出器との距離、中性子反射材や減速材などの選定が特に重要です。

図4-15

耐火材加熱乾燥中における中性子計数値の変化

 加熱開始後9時間から16時間にわたる中性子計数値の増加は、内側からのバーナー加熱によって、耐火材中の水分が外側の鉄板に近い方へ移動し検出器に近づくため、同じ水分量でもより効率良く計測されたことを示しています。また、約40時間で良好な乾燥状態になったことがわかります。

 

 


 製鉄所では溶けた鉄や鋼を運ぶ大型の耐熱容器が用いられます。これらは厚い鉄板の内側に特別な耐火材を張りつめてあり、損傷がひどくなると耐火材を更新する必要があります。その際に、水分を多量に含むセメント状の耐火材を厚く塗りつけた後、ガスバーナーで長時間加熱乾燥します(図4-13)。しかし従来、耐火材中の水分を加熱乾燥時に直接計測する方法がなく、良質の耐火材を作るのに重要な乾燥工程を最良の条件に設定することが困難でした。
 そこで、耐火材中の水分をごく微量まで計測できる、高感度で移動計測可能な水分計を開発しました。モデル実験として、水素を多く含み、かつ位置を容易に変えられる模擬水分としてポリエチレンを使用し、中性子線源と検出器との距離や、中性子反射材や減速材を変えて、水分計の特性を調べました。その結果、鉄反射材と黒鉛減速材の大きさを選び、中性子の多重反射と減速を効果的に利用することで、今までより約6倍測定感度の高い中性子水分計が実現しました。
 これを実際に耐火材乾燥中の耐熱容器の外表面に取りつけ、現場計測実験を行いました。加熱乾燥が進むにつれて水分は耐火材中を移動し、やがて容器外側の鉄板にある多くの小さな孔から、水蒸気となって放出されます。図4-15に示すように、これらに対応した中性子の計数値変化が観測されます。また、この様子が容器壁の場所によっても大きく異なることがわかりました。
 この技術がさらに多くの耐火材乾燥工程の改善や診断に、大いに役立つことが期待されています。


参考文献

富永洋他、微弱放射能中性子源を用いた高感度水素・水分計の開発、第22回日本アイソトープ・放射線総合会議論文集、A340(1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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