5.1 ニューラルネットワークで原子炉最適設計を高速化
   

図5-1

解析計算の代わりをする階層型ニューラルネットワークの構造  

 解析計算から得られた複数個の教師データ(設計変数と炉心特性値の組み合わせ)を用いてニューラルネットワークを学習することにより、設計変数と炉心特性値間の複雑な写像関数を構築します。ニューラルネットワークを構成する隠れ層の層数や隠れ層のニューロン数が多いほど、非線形性が強い写像関係を模擬しやすいと考えられていますが、計算時間が多くかかります。構成を工夫して、単純な構造で精度の良い答をいかに得るかが、ネットワーク設計の鍵となります。

図5-2

ニューラルネットワークが推定したウィンドウと内部の炉心特性値の分布表示例

 燃料ピン直径、燃料ピン間隔、ホットチャンネル係数をパラメータとして、ニューラルネットワークから冷却材温度を求め、燃料ピン直径が9.5 mmの場合の飽和温度との差を図示しました。また、設計ウィンドウ(設計基準や要求仕様を満足する設計可能領域)を併せて図示しました。この例では、冷却材温度が飽和温度を超えないという制約条件が設計ウィンドウ上部の設計境界を決定しています。つまり、温度差がゼロとなる境界が設計限界となります。このような情報が、従来の解析計算と比較して数十分の一の計算時間で得られます。


 原子炉炉心設計とは、設計基準や要求仕様を満足するように、炉心構成物の形状、寸法、配置、物質等の設計変数の値を決定することです。従来は、最適な設計変数が見つかるまで、それらの値をいろいろ変えてみてその都度解析計算を行って炉心の特性を調べるという作業を繰り返していました。このため、設計変数が多くなるほど最適な設計変数を見つけるまで、多大な計算時間と豊富な設計知識・経験が必要でした。
 最近、電化製品を始め様々な分野でニューラルネットワークが使われています。ニューラルネットワークは、人間の神経回路網を計算機上で模擬したもので、人間の脳と同様に、学習を重ねるにつれて精度の良い出力を与えてくれます。ニューラルネットワークのレスポンスは非常に速いので、設計変数を入力信号、炉心特性を出力信号に見立て、時間を要する解析計算の代わりをニューラルネットワークにさせて、設計にかかる時間を短縮することを考えました(図5-1)。
 ニューラルネットワークは、一般的に回路網が複雑になるほど、つまり、ニューロン(神経細胞)の個数やニューロン間の結合数が多いほど、また、学習例が多いほど、正しい答えを出してくれます。これまでの研究で、比較的単純なニューラルネットワークにより、十分な精度で解析計算の代わりができることがわかりました。また、設計変数が3個の場合、解析計算に頼ってきた従来に比べ、計算時間は数十分の一に短縮できることがわかりました。計算例を図5-2に示します。


参考文献

T. Kugo et al., Application of Neural Network to Multi-Dimensional Design Window Research, Proc. Physor '96., Sep. 16-20, 1996, Mito, 1, B73 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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