5.2 水素により高速炉の反応の進み具合を制御
   

図5-3

燃料板の配列

 炉心の組成を、プルトニウム燃料板、ウラン燃料板、Na板、ジルコニウム板および密度の異なるポリスチレン板で模擬しました。

図5-4

減速材の量と中性子の反応を制御する因子

 減速材の中の水素原子と燃料の中のウランやプルトニウムの原子の数の比を0.13位にすると、中性子の反応を抑える因子(ドップラー反応度係数)が約2倍に大きくなり、また、中性子の反応を進める因子(ナトリウムボイド反応度係数)が約半分に小さくなります。


 高速炉の燃料として熱的性能に優れた金属燃料や、窒化物燃料を用いると安全で性能の良い高速炉の設計が可能となります。これらの新型燃料を用いると、エネルギーの大きな中性子による反応が支配的となり増殖性能は向上しますが、冷却材であるナトリウムの流れが少しづつ少なくなるような異常の際に、炉心の中で中性子の反応が進みすぎる心配があります。そこで、炉心の中に中性子のエネルギーを小さくする物質(減速材)を装荷し、中性子の反応の進み具合を制御できないか実験で検討しました。
  高速炉臨界実験装置(Fast Critical Assembly : FCA)を用いて、炉心の中に装荷する減速材の量をいろいろ変えながら中性子の反応の進み具合を調べました。実験では、燃料として金属燃料板を、また、減速材としてポリスチレン板(CH)を用いました。密度の異なるポリスチレン板を製作し、これらを順次用いて炉心に装荷する水素の量を変えました(図5-3)。水素装荷量の異なる3つの炉心で、中性子の反応を制御する因子(反応度係数:ドップラー反応度係数とナトリウムボイド反応度係数)を測定し、水素の量を増やしていくことにより反応度係数の改善を図ることができることを実証しました(図5-4)。また、増殖性能の測定も併せて行い、炉心の中の水素の量と増殖性能との関係を明らかにしました。
 以上の実験結果を用いて計算精度を確認することにより、増殖性能を損なうことなく熱的性能の良さを活かした新型燃料高速炉の設計精度の向上を図ることができます。


参考文献

T. Osugi et al., Mock-up Experiment for Moderator Added Fast Reactor, Proc. Physor '96., Sep. 16-20, 1996, Mito, 2, E21 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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