6.1 自然の力を利用して原子炉の安全を確保する
   

図6-1

大型非定常試験装置(LSTF)

体積:実炉の1/30 高さ:実炉と同じ

図6-2

AP600の受動安全系

図6-3

LSTFによる実験結果(小破断事故時の原子炉圧力挙動)


 ROSA計画大型試験装置(LSTF)は、PWRの事故模擬実験を行うための世界最大の実験装置です(図6-1)。これまでに130回を超える実験を実施し、我が国の原子力発電所の安全性には十分な余裕があることを確認しました。また、美浜発電所で実際に起こった事故の再現実験を行い、安全委員会による事故調査に貢献しました。最近では、原子炉の安全性をさらに向上するための炉心損傷防止策(アクシデントマネージメント)に関する実験と平行して、米国の新型PWR(AP600)の安全性確証実験を実施しました。
 AP600は、ウエスチングハウス社が開発中の電気出力60万 kWの新型PWRで、事故が発生した時に炉心を冷却するための安全装置が重力や圧力で働くように設計されています(受動安全系と呼ばれています)。AP600の受動安全系の構成を図6-2に示します。受動安全系の可動部分は弁だけですから、停電や故障の問題が少なく、信頼性の向上が期待されてます。しかし、重力はポンプの動力に比べると弱く、機器相互の干渉などによって予定通りの注水ができない場合が生じることが心配されたため、実験で確かめることにしました。
 直径2.5 cmの小破断事故模擬実験における原子炉圧力の変化を図6-3に示します。小破断が発生し、加圧器の水位が低下すると、自動的に炉心補給水タンクからの重力注入と静的余熱除去系が作動します。さらに、自動減圧系が作動すると、原子炉圧力は一気に大気圧近くまで低下し、燃料交換用水タンクから大量の水が重力によって炉心に流入します。この他、自動減圧系の誤作動や蒸気発生器伝熱管損傷などの事故について、全部で24回の実験を行いました。こうして、受動安全系は概ね予定通り作動し、炉心冷却が維持されることが確認できました。


参考文献

Y. Anoda et al., ROSA-AP600 Test Results for Beyond-design Basis Accident Scenarios, Proc. 25th Water Reactor Safety Information Meeting, Oct. 20-22, Bethesda, 1997, 87 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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