6.2 炉心溶融事故でも圧力容器の温度は意外と速く低下する
   

図6-4

圧力容器内デブリ冷却性実験装置の概念図

 格納容器及び圧力容器の下部ヘッドを模擬した装置であり、模擬格納容器の圧力、温度等を調節できます。デブリの模擬物質である溶融アルミナを下部ヘッド実験容器に注ぐことにより実験を行います。デブリの中心付近及び実験容器の外壁に熱電対を設置し、温度を測ります。

図6-5

模擬デブリの温度変化

 下部ヘッドでの模擬デブリの冷却の様子を示します。デブリの質量の大小に余り関係せず、デブリ中心付近の温度は一様に減少します。

図6-6

模擬圧力容器下部ヘッド外壁の温度変化

 デブリ50 kgのときの実験容器外壁の温度変化を示します。デブリ注入とともに外壁温度は上昇しますが、ある時点から急激に低下します。急激な温度低下は周辺部から中心部への順序で進みます。

 

 


 シビアアクシデント時の原子炉格納容器や圧力容器の健全性を調べるため、原研は事故時格納容器挙動試験(ALPHA)計画を推進しています。今回、炉心溶融を模擬した規模の大きな工学実験を行い、次に述べるような有用な成果を得ました。
 炉心が溶融すると、溶融物は水中に落下し、圧力容器の下部ヘッドに蓄積されます。これを模擬するための実験装置を図6-4に示します。炉心溶融物の固まりをデブリと呼びますが、その模擬物質として酸化鉄とアルミニウムによる発熱反応(テルミット反応)により生成する溶融アルミナを用いました。
 約2,700 Kの温度で注入された模擬デブリ(30 kg及び50 kg)の温度は、図6-5に示すように体積で約2倍の差があるにもかかわらず、両者ともほぼ同じように低下しました。
 模擬デブリ50 kgを用いたとき、注入後300秒を過ぎてもデブリはまだ約2,000 Kの高温ですが(図6-5)、実験容器外壁の温度(図6-6)は急激に低下しました。これから、デブリと実験容器壁との間には隙間が形成され、そこに水が侵入し、実験容器を急冷したことが推測されます。実験後の超音波測定により、1 〜2 mmの隙間が存在することを確認しました。 炉心溶融時でも、圧力容器内に水が存在すれば、下部ヘッドが健全であることを示唆する有力な知見を得ました。


参考文献

Y. Maruyama et al., Studies on In-vessel Debris Coolability in ALPHA Program, NUREG/CP-0157(2), 161 (1997).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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