6.3 仮想臨界事故を調べる
―TRACY実験が本格化―    

図6-7

臨界事故模擬実験装置TRACY

調整トランジェント棒の引抜き又は燃料溶液の供給により臨界事故を発生させ、出力、温度、圧力、ベントガス等の時間変化を測定します。

図6-8

臨界事故の起こり方による出力変化の差

 急激にトランジェント棒を引抜く(パルス引抜き)と負のフィードバックが強く働き、出力は急激に減少します。なだらかにトランジェント棒を引抜いたり(ランプ引抜き)、燃料溶液を供給する(ランプ給液)と出力の変化は緩慢であるが全核分裂数は大きくなります。

図6-9

出力変化の計算における放射線分解ガスの効果

水の放射線分解により発生したガスの効果を計算に取り入れることにより、臨界事故時の出力変化を精度良く計算することが可能となりました。


 核燃料の加工や使用済み燃料の再処理等の核燃料を取り扱う施設は、臨界事故が発生しないように、また、万一臨界事故が発生した場合においても公衆の被曝線量が許容される値以下になるように設計されなければなりません。臨界事故時に発生する核分裂数は、過去の事故例における値より大きい1019から1020を想定することとしています。しかし、過大な安全余裕は施設への負担を大きくし、運転効率の低下等を引き起こします。このため、合理的な安全評価手法の開発を目指して、原研は臨界実験装置TRACYを製作し、臨界事故模擬実験を行っています。
 TRACYは図6-7に示すようにタンクの中に溶液燃料を入れて臨界にする施設です。臨界事故の起こり方(反応度の添加方法)を変えると、図6-8に示すように出力(単位時間当たりの核分裂数)の変動の仕方が変わります。これは、水の放射線分解による水素ガスの発生や温度の上昇速度が異なり、中性子の反応の進行を抑える大きさに差が生ずるためです。これらの機構を解明することにより、臨界事故規模が推定できるようになります。図6-9は現在開発中の計算コードにより求めたTRACYの出力変化です。計算に放射線分解ガスの効果を取り入れることによって、実験の出力変化を精度良く計算できるようになりました。また、公衆被曝の評価に必要な、臨界事故時に発生する放射性物質移行の機構の解明に必要な実験値も得られつつあります。


参考文献

中島健他、TRACYによる実験、その研究成果、原子力工業、43 (9), 14 (1997).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
copyright(c)日本原子力研究所