8.1 飽和温度を利用した新型キャプセル
   

図8-1

飽和温度キャプセル

飽和温度キャプセル内には純水が流れ、試料表面では沸騰が生じます

 

図8-2

ガンマ発熱と沸騰特性の関係

原子炉内ではガンマ線の分布は一様ではありません。このガンマ発熱量で生じるキャプセル内の熱流束を核沸騰開始点から温度一定区間での範囲に抑えて、照射試料表面を飽和温度に維持します。水圧87気圧では約300℃です。

 

図8-3

照射下ジルカロイ-4の腐食速度測定例

軽水炉環境における腐食速度を、絶縁した2枚のジルカロイ-4板間の交流インピーダンス法で測定した結果、照射のない炉外試験より照射下試験の腐食速度が増加しました。照射による腐食速度増加の機構が考察できるようになりました。

 

 


 材料照射用原子炉(JMTR)ではこれまで発電用原子炉(軽水炉)の材料を照射試験する場合、軽水炉の条件を模擬した大型のループ照射装置を必要としていましたが新たに小型ループ照射装置とでも呼べる水冷却型キャプセル(図8-1:飽和温度キャプセル)の開発に成功しました。この装置は大型ループに比べて運転・維持の費用を削減できるとともに、全照射孔での照射を可能にしました。原子炉内では、図8-2に示すようにガンマ発熱量が炉心中心からの距離に伴って変化するので、キャプセル内の熱流束を水の沸騰特性曲線における沸騰開始点から温度一定区間の範囲に抑えると、キャプセル内の試料表面温度は飽和温度を維持できます。制御温度は水圧を変えて変化させることができます。例えば、水圧87気圧では約300 ℃の照射が可能となります。
 応用例として、軽水炉の燃料被覆管材料(ジルカロイ-4)の腐食速度を照射下で測定した結果を図8-3に示します。実線はジルカロイの腐食速度の予測式です。照射下では、予測式とほぼ一致した腐食速度を示し、飽和温度キャプセルが炉内環境を充分に模擬できることがわかりました。


参考文献

Y. Matsui et al., Y. Matsui et al., Irradiation Techniques under High Pressurized Water Using Hybrid Type Saturated Temperature Capsule in the JMTR, J. Nucl. Mater., 258-263, 378 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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