10.4 高エネルギー中性子の物質透過を調べる
   

図10-7

サイクロトロンに設置された準単色中性子源施設

濃縮同位元素7Liに陽子を衝突させ7Li(p, n)8Beに反応により中性子を発生させます。中性子発生源と、中性子計測部が分離されており、7LiLiを通過した反応済みの入射陽子ビームは加速器室内のビームダンプで処理されるためバックグランドの原因になりません。また、薄い7Liが利用できるためにバックグランドの少ない単色性の良い中性子の発生が可能となりました。

 

図10-8

エネルギーの定まった準単色中性子の発生を示すエネルギースペクトル

 

図10-9

68 MeVの陽子による準単色の中性子を用いた測定値と予測値の比較

実験値と改良された理論値の一致が良く、予測精度が飛躍的に向上したことが示されています。

 

 

 


 加速器技術の急速な進歩に伴い、加速器は医療や工業など身近な分野で幅広く利用されるようになってきました。また、加速される粒子のエネルギーも数10 MeVから数100 MeVとだんだんと高くなり、その結果、物質を透過しやすい高エネルギー中性子を遮蔽するために必要なコンクリートや鉄などの遮蔽体の厚さが増して、施設の建設コストを決める重要な要因となっています。しかし、従来、単色(単一のエネルギーを持った)中性子を発生させることが困難であったため、高エネルギーの中性子データに対する精度の良い実験値は極めて少ないのが現状です。原研ではこれらの問題を解決するために、AVFサイクロトロン施設に、図10-7に示すような準単色の中性子を発生させることができる世界的にもユニークな施設を建設しました。この施設では中性子発生部と測定部を厚い遮蔽壁によって分離することによりバックグランドの少ない極めて単色性の良い中性子を発生させることができます(図10-8)。
 この中性子測定施設を用いて、様々な厚さの鉄やコンクリートの遮蔽体を透過する中性子の動きやエネルギーが変化する様子を調べました。この実験値を基に、高エネルギー粒子の動きを予測する理論を検証しました。その一例を図10-9に示します。その結果、従来の理論計算の予測は、今回の実験値より大きくなり、中性子が実際より多く透過するように予測していることが分かりました。この新しい実験の結果、理論予測の精度を飛躍的に向上させることが可能となりました。これらの結果から、加速器施設の安全性を保ちつつ遮蔽体の厚さを最適化させ、建設費の低減が期待されます。


参考文献

H. Nakamura et al., Transmission through Shields of Quasi-Monoenergetic Neutron Generated by 43- and 68- MeV Protons- I and -II, Nucl. Sci. Eng., 124, 228 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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