10.5 古文化財の中身を放射線で見る
   

図10-10

撮影装置と原理

研究炉から導かれた中性子線とガンマー線を文化財に約 1秒間当て、中性子線用とX線用のイメージングプレートを同時に反応させ、計算処理をして合成画像を作成します。

 

図10-11

金銅製杷頭(とってがしら)への適応結果

中根笠谷古墳前方後円墳から馬具等とともに出土したもので、杷頭(とってがしら)の外観は金銅でできています。中性子線による木部とガンマー線による金銅部を合成処理して得られたカラー画像から位置関係、素材、形状等が確認できます。

 

 


 貴重な古文化財は、日本だけでなく世界の遺産であり、長い将来に渡って良好な状態で保存し、伝えていかなければなりません。古文化財の中身がどの様になっているか、何で出来ているか、文化財を分解することなく調査することができれば、造られた年代や、その背景を研究する上でも、また、保存方法や補修方法を決定する上でも、極めて有益な情報が得られることになります。
 従来、古文化財の非破壊検査にはX線やガンマー線が利用されてきました。しかし、この方法では、文化財内部の金属(青銅、銅、鉄など)は観察できても、有機物(紙、布、木材など)は観察することはできませんでした。X線やガンマー線は金属には吸収されて減衰し、フィルムに濃淡となって現れますが、紙や木材のような物質では透過してしまいます。そこで水素や炭素からなる有機物の観察に威力を発揮する中性子線と、金属に適したガンマー線を組み合わせた非破壊検査方法を開発しました。研究炉に取り付けた中性子線とガンマー線のラジオグラフィ装置で同時撮影し、一枚の画像上で合成表示することによって、より鮮明な透視画像を得ることに成功しました。また、撮影には原研で開発した高感度の中性子線用フィルム(イメージングプレート)を用い、照射時間の大幅な短縮と文化財の放射化を低減させることができました。


参考文献

松林政仁他、イメージングプレートを用いた文化財非破壊検査技術、非破壊検査、47 (5), 312 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1998
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