1.4 超伝導状態でも量子振動が出現する
   


図1-7  ウラン化合物UPd2Al3の超伝導混合状態と常伝導状態におけるdHvA(ドハース・ファンアルフェン)振動

磁場が上部臨界磁場Hc2(=39 kOe)より低いとき超伝導混合状態、高いとき常伝導状態になります。磁場が31 kOe以下のところの振動が今回発見されたものです。

 


図1-8  図1-7のdHvA振動のフーリエ変換スペクトル

フェルミ面のαブランチが常伝導状態でも超伝導状態でも観測されています。両状態において、αブランチのdHvA振動数は同じ(2.64×106 Oe)ですが、振動の振幅は異なります。dHvA振動数はフェルミ面の構造についての情報を与えてくれます。

 


図1-9  ウラン化合物UPd2Al3のフェルミ面のαブランチのサイクロトロン有効質量とディングル温度の磁場依存性

ディングル温度は伝導電子の散乱の大きさを示すものです。磁場が上部臨界磁場Hc2(約39 kOe)以下の超伝導混合状態において、両者は著しい磁場依存性を示しています。


 金属の性質が伝導電子によって決められることはよく知られています。そして、伝導電子のエネルギーや運動量は連続的に分布した値をとりますが、その様子を示すものがフェルミ面です。
 極低温で金属に磁場を加えていくと、伝導電子のエネルギーが離散的な値に変わり、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果と呼ばれる量子振動が起こるようになります。この効果を測定すると、フェルミ面の構造、伝導電子の有効質量、および伝導電子の散乱についての情報が得られます(図1-9)。私たちは、「重い電子系」と呼ばれるウラン化合物UPd2Al3について、このdHvA効果の測定を行ってきました。
 UPd2Al3は、温度が1.9 K以下になると超伝導状態になります。dHvA振動はこれまで、常伝導状態でのみ観測されてきたものです。そして、超伝導状態ではフェルミ面の近傍にいわゆる超伝導エネルギー・ギャップが生じるので、dHvA振動は著しく抑制されてしまい、観測は極めて困難であると考えられてきました。
 しかし、私たちは、高純度単結晶の育成により、UPd2Al3の超伝導状態でのdHvA振動の検出に今回初めて成功しました(図1-7, 1-8)。磁場をかけたときの超伝導状態は、磁場が量子化された磁束線という形で試料中に侵入していて、超伝導混合状態と呼ばれています。今回の成功により、超伝導混合状態における量子振動の理解が一段と進みました。


参考文献

Y. Haga et al., De Haas-Van Alphen Oscillation in Both the Normal and Superconducting Mixed States of UPd2Al3, J. Phys. Soc. Jpn., 68(2), 342 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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