1.5 新しい方式による中性子モノクロメータの実用化に成功
   


図1-10  生体物質中性子回折計(BIX-1)で現在使用している湾曲器とシリコン単結晶(250 mm×40 mm×5 mm)

 

表1-1 新旧モノクロメータの性能比較

 


図1-11   湾曲度による反射強度の変化。横軸は湾曲度(曲率半径の逆数)、縦軸はロッキングカーブのピーク強度。折れる寸前(グラフ右端)まで強度が上昇していきます。

 


 原研JRR-3M原子炉には、中性子回折などの中性子実験装置が数多く設置されています。そこでの最も基本的なコンポーネントの一つが、単色エネルギーの中性子ビームを取り出すためのモノクロメータです。
 従来の中性子実験では、モノクロメータとして高配向性熱分解黒鉛(Highly Oriented Pyrolytic Graphite, HOPG)を用いています。しかし、生体物質の構造解析などのためには、さらに高性能のモノクロメータが必要になりました。多くの検討と試行錯誤の結果、私たちはシリコン完全結晶を弾性的に湾曲させて用いる方式を採用し、平行性の良い、しかも高強度の中性子ビームが得られるモノクロメータの実用化に成功しました。原理は古くからわかっていましたが、実用には至っていなかったのです。
 この中性子モノクロメータは、板状のシリコン単結晶をピアノ線で弓のように湾曲させ(図1-10)、弾性限界範囲内で反射強度や焦点距離等のビーム特性を変化させることができるものです。図1-11に、湾曲度による反射強度の変化を示しました。また、新旧モノクロメータの性能比較を表1-1にまとめました。
 このモノクロメータは、コンパクトで拡張性が高いこともあって、JRR-3M原子炉において、稼働中および建設・計画中の中性子実験装置合計7台に採用されています。


参考文献

I. Tanaka et al., An Elastically Bent Silicon Monochromator for a Neutron Diffractometer, J. Appl. Crystallogr., 32, 525 (1999).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
copyright(c)日本原子力研究所