1.6 ヘリウムフリーで中性子散乱実験が50mKの超低温でできる
   


図1-12  中性子散乱用ヘリウムフリー希釈冷凍機の概念

試料は最も温度の低い混合室の下部にとりつけられ、中性子を散乱します。超低温の定常状態においては、混合室の中でHe-3+He-4混合液が二相に分離し、He-3濃厚相は上方に、He-3希薄相は下方にわかれます。ターボ分子ポンプによる減圧により、He-3が分溜室から選択的に排気され、外部の圧縮器によって再び中に入れられ、冷却・液化されます。He-3の循環に伴って、混合室中ではHe-3濃厚相から希薄相へHe-3が溶け込んで希釈されるとき冷却が起こります。ハイブリッド冷凍機はGMステージとパルス管ステージからなり、He-3の冷却・液化を行うための低温雰囲気を作ります。

 


図1-13  開発したハイブリッド冷凍機のみによる主要部の冷却状況。横軸は冷凍機ON時からの経過時間。挿入図で示した予冷操作によって、各部分は低温の定常値に約1日で到達します。その後で、He-3を循環させて希釈冷凍による超低温生成を連続的に行います。

 


 JRR-3M研究炉で行われている中性子散乱実験では、試料を絶対温度0.1 K以下の超低温にする必要が生じました。
 超低温は、ヘリウム-3(He-3)/He-4希釈冷凍という原理によって実現できます。希釈冷凍機は、先ず低温雰囲気を作り、その中でHe-3とHe-4を混合した作業ガスを働かせる大変大がかりなものです。とくに市販のものは、この低温雰囲気をつくるために、大量の液体ヘリウム寒剤(He-4液体)が必要になるので、このことが超低温の中性子散乱実験を非常に難しくしていました。
 私たちは、この大量の液体ヘリウム寒剤を使う従来の方式ではなく、Gifford-McMahon(GM)冷凍機とパルス管冷凍機をくみあわせたハイブリッド冷凍機を用いる方法によって、容易に50 mKの温度を得られる冷凍機を開発し、これを中性子散乱用「mKクライオクーラー」と呼ぶことにしました。この希釈冷凍機は、ボタン一つ押すだけで超低温を生成し、長時間の中性子散乱実験中ほとんどメンテナンス無しの安全運転をすることができます。また、コンパクトな冷凍機なので、中性子散乱装置の試料部の回転や傾斜が容易にできるようになりました。


参考文献

Y. Koike et al., Development of Liquid-He-Free Dilution Refrigerator for the Neutron Scattering, Proc. of ICEC17: Refrigeration, Section 6, 263 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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