2.2 ヘリウム原子のミクロ過程からダイバータを考える
   ―衝突効果で排気効率向上―
   



図2-3 ダイバータ近傍のHe原子のスペクトル線

(a)ダイバータ板直前のスペクトルは、ダイバータ板から放出された低エネルギーのHe原子によるもので、スペクトル線の広がりの幅がせまい。
(b)ダイバータ板から12 cm離れたところでは、プラズマ中のプロトンとの衝突によりHe原子が運動エネルギーを得てスペクトル線の幅が広がる。これは衝突の効果を取り入れたシミュレーション結果と実測値が良く一致することからわかります。
(c)ダイバータ部断面図。高分解能分光器の観測位置を示します。

 


 定常核融合炉では、核融合反応の“燃焼灰”であるヘリウム(He)を効率よく炉外に排出することが必要です。JT-60ではダイバータによるHe排出の模擬実験を行い、すでにその有効性を確かめていますが、高効率のHe排出技術を確立していくためには、ダイバータ部でのHe原子などの振舞いについて精確な物理的知識が不可欠です。そこで私たちは、ダイバータ近傍のHe原子からの発光を高分解能の可視分光器で測定し、He原子の運動速度の分布や基本的な運動過程のデータを得るとともに、ダイバータ・プラズマのいろいろな粒子間の衝突などのミクロな過程についてシミュレーション解析を行い、実験データとの比較・検討からダイバータ近傍でのHe原子の振舞いを詳しく調べています。
 図2-3はHe原子のスペクトル線です。ダイバータ板から離れた所でスペクトル線が広がりを持ちますが(図2-3(b))、これはダイバータ板から放出されたHe原子が、プラズマ・イオン(プロトン)との衝突によって運動エネルギーを得るためであること(弾性散乱)が、シミュレーション解析との比較から明らかになりました。この過程によって排気用ギャップに向うHe原子の量が衝突効果を含まないシミュレーションの評価に比べて約30%増加し、排気効率を高めることが期待されます。


参考文献

H. Kubo et al., Spectroscopic Study of the W-Shaped Divertor in JT-60U, Proc. of ICPP & 25th EPS CCFPP, Jun. 29-Jul. 3, Praha, ECA 22C, 427 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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