2.5 乱れたトカマク磁場中の超高速電子の軌道を調べる
   ―逃走電子を発生させないプラズマ停止法に手がかり―
   


図2-7  乱れた磁場中での相対論的電子の軌道

確率的に乱雑に乱れた構造をもったトカマク磁場中での相対論的電子(この例では光速の99%以上の高速の電子)の軌道を示します。従来このような高速電子の閉じ込めは乱雑磁場では劣化しないと考えられていましたが、磁場の乱れが巨視的なスケールになると相対論的電子の閉じ込めが壊され、最初プラズマ内部にあった電子がプラズマの表面に達して損失することが初めて明らかになりました。

 


 核融合炉の運転を緊急停止させる一つの方法としてキラー・ペレット入射法(KPI:Killer Pellet Injection)が提案されています。これはネオンなどの氷の粒(ペレット)を炉心に高速で入射して炉心プラズマを強制的に冷却して運転を止める方法で、すでにJT-60で実験を行っています。JT-60の実験の結果、従来の理論的予測に反して、KPIによって生じた磁場の乱れが逃走電子(非常に高いエネルギーまで加速される電子、炉内構造物に損傷を与えるなどの悪い影響を及ぼす)の発生を抑制する好都合な効果があることがわかりました。
 この実験結果を理論的に解明するため、相対論的効果を考慮した三次元シミュレーションによって、磁場の乱れがあるときの高速の電子の軌道を計算し、損失の機構を解析しました。その結果、JT-60のKPIによる高速停止実験では、数cm規模の大きな幅をもち、重なり合った“磁気島”と呼ばれる磁場の乱れが生長し、相対論的な高速電子は、この重なり合った磁気島を通過する際に散乱を受け、それが集積することによって閉じ込め軌道が壊されることが明らかになりました。この損失過程から推定した高速電子の損失率はJT-60の実験結果を良く説明でき、KPIが逃走電子を発生させない炉心プラズマの停止法として有効であることがわかりました。図2-7にシミュレーションの結果を示します。


参考文献

S. Tokuda et al., Simulation Study on Avoiding Runaway Electron Generation by Magnetic Perturbations, Proc. of 17th IAEA Fusion Energy Conf., Oct. 19-24, 1998, Yokohama, IAEA-CN-69-THP2/26 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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