2.11  核融合炉燃料管理の質の向上を図る
    ―トリチウム計測の新しい技術―
   


図2-19  核融合炉燃料プロセスガスの遠隔多点分析測定システムの概念図

レーザー光はレーザー光分配器でいくつかのファイバーに分岐・転送されます。それぞれのグローブボックス中で燃料プロセス(真空容器)からの排気ガスから重水素とトリチウムを精製・回収・分離する工程)の各機器や配管に取り付けられた測定光学系内でレーザー光がガスに照射されます。レーザー光の照射により出てくる水素同位体ガスや分子状の不純物ガスに特有な散乱光の信号が、もう一つのファイバーでCCD検出器を持ったマルチチャンネル分光器に転送され、それら散乱光のスペクトルが検出・測定されます。これらの測定は数秒単位で行うことが可能です。

 


図2-20  ガス分析の例

図中D2(重水素分子)、HD(水素と重水素分子)やH2(水素分子)の成分の時間変化の様子がピーク値から読み取れます。

 


 当面の核融合炉では重水素と3重水素(トリチウム)の混合ガスが燃料となります。トリチウムは半減期約12年の弱い放射性物質で外部にもれないよう計量・管理する必要があります。核融合実験炉ITER設計の場合では総量数kgのトリチウムが各種の機器に分散して存在し、常時循環しています。想定される異常事象の場合に地上でのトリチウム水(HTO)の漏れ量数百g以下を自主安全基準としています。この基準を実現するためITERでは燃料に対する3重の隔壁を採用しています。さらには想定される異常事象を素早く検知し的確な処置をとりトリチウム漏洩を極力少なくすることが重要です。このためには炉内の燃料の総量や成分やその変化を正確に把握することが最も有効となります。
 ITERの燃料循環系では約0.3 g/秒で燃料ガスが循環しています。燃料の組成や化学変化を速やかに知るため、循環する燃料にレーザー光をあて、ガス分子と相互作用した散乱光を測定するシステムを開発しました。この方式の特徴は循環中のガスを直接に、連続的に精度良く計ることにあります。図2-19にはシステムの構成、図2-20には測定例を示します。ITERでの使用を想定したプロトタイプシステムを製作し1分以内に複数の点で水素同位体の成分誤差1%以内で測定可能なことを実証しました。この技術は化学プロセスの微量組成やその変化を精密に計る技術として幅広い応用が可能です。


参考文献

S. O'hira et al., Development of Real-Time and Remote Fuel Process Gas Analysis System Using Laser Raman Spectroscopy, Fusion Technol., 30, 869 (1996).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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