3.1 最新加速器理論で陽子リニアック性能の飛躍的向上を目指す
   


図3-1  リニアックの構成

 


図3-2  集束と加速の概念

陽子ビームは、バンチと呼ばれる集団で運動し、加速空洞で発生する電場によって進行方向に加速され、これと垂直な方向はQ磁石を使った磁場によって集束されます。Q磁石の強さが弱すぎるとビームバンチは垂直方向に大きくなり過ぎたり、逆に強すぎると進行方向に悪影響を与えるために、最適な強度となるように設計します。

 


図3-3  ビームエミッタンス

エミッタンスはビームの大きさと発散角の積で、これが小さい程ビームの質が良い。

 


 中性子科学研究プロジェクトの中核をなすものは高エネルギーで大強度の陽子リニアックです。十分な中性子強度を得るために陽子は連続ビームですが、実験の種類によりパルスビームも必要になります。目標とするビーム出力は数MWで、これは現存する加速器の1桁以上大きな値となり、このため生ずる問題を克服しなくてはなりません。放射化を防ぐため途中でのビーム損失を極力抑えること、発生する膨大な熱を十分除去することなどです。
 リニアックの構成を図3-1に示します。最終段の主加速部には高周波電力の損失を非常に小さくできる超伝導リニアックを用います。さらにこうすることでビームが通る部分の径を大きくとることができ、ビーム損失を小さくできます。
 この設計の大きな特徴の一つは、主加速部の設計に“等分配”の考えを採用したことです。これは最近提案されたもので、ビームの塊(バンチ)の中の陽子の運動を、ビーム進行方向とそれに垂直な方向の運動に分けて、そのバランスを取るときビームがもっとも安定な状態になるというもので、そうなるように集束系を作ります(図3-2)。こうして設計した場合のビームエミッタンス(ビームの大きさ×発散角)の計算結果を図3-3(a)、(b)に示します。進行方向の特性が大きく改善され、ビーム損失の抑制された世界最大級の加速器の実現が期待されます。


参考文献

K. Hasegawa et al., System Design of a Proton Linac for the Neutron Science Project at JAERI, J. Nucl. Sci. Technol., 36(5), 621 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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